その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 緊張していた心にふっと安堵が入り込む。

「真鯛のアンティボワーズソースです」

白い皿に美しく彩られた真鯛のソテー。クリーミーなソースの香りにふわりとレモンの酸味が重なる。添えられたマッシュポテトと温野菜の彩りが、さらに食欲を掻き立てた。

「いただきます」

そっとナイフを入れると香ばしく焼かれた鯛がほろりと崩れる。トマトとオリーブ、ケッパーのソースとともに口へ運ぶと、さっぱりとした爽やかな風味が口いっぱいに広がった。

「気に入ったか?」
「はい、すごく美味しいです!ソースが爽やかだけどコクがあって、鯛の甘みとも合っていて」

自分でも気づかないうちに、自然と笑みがこぼれて声も弾んでいた。美味しいものの力はすごい。

「柊木さんのはクリームソースですか?」
「仔牛のブランケット・ド・ヴォー。ベースは白ワインだ。フランスの家庭料理でビストロの定番だが、ここのは特に洗練されてる」

淡々と返しながら、真澄はナイフとフォークで切り分けて口に運ぶ。その一連の所作にも隙がなくて、食べ方ひとつ取っても無駄がなく綺麗だった。

「煮込みって赤ワインのイメージでしたけど、白でも合うんですね」
「ソースのベースがクリームだからな。香りが重たくなりすぎないように、ワインの酸味を残した仕上げになってる」
「……あ、なるほど」

すらすらと出てくる知識と料理にも詳しいことに驚かされる。
この人にできないことなんてないんじゃないだろうか。そんなことを思いながら、澪もまた静かに食事を進めていった。

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