その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「今、俺は院内で次の教授ポストに選ばれる候補に挙げられている。だが、その選考にあたって『既婚者であること』が条件に含まれている」

 「……は、はい?」

 あまりに予想外の言葉に、澪は思わず変な声を出してしまった。

 「院長の方針らしい。『安定した家庭を持つ医師が責任ある立場に就くべき』だと。そもそも俺は教授など目指していないし、そんな考えは時代錯誤だと思っていた」

 (そんなこと現実にあるんだ……)

 教授ポストの選考。院長の独断的な方針。
 まるでどこかの医療ドラマみたいな話だ、と澪はぼんやり思う。

 「それでしばらく放っておいていたんだが…今度は副院長の娘との縁談話が持ち上がった」

 その言い方には少しだけ呆れたような、どこか諦めが滲んでいる。

 「その縁談話を受ければ今後、院内において俺に関わるすべてのことが『副院長の意向によるもの』と周囲に取られかねない。それだけは不本意だ。だから受けたくはない」
 「えっと……それってつまり、教授になるためというよりは……」

 自分でも頭の中で話を整理しながら、言葉を紡ぐ。

 「副院長の娘さんとの縁談話を断るために、ということですか?」
 「……そういうことになる」

 真澄はごく淡々と、けれど少しだけ言いづらそうに頷いた。

 「非常識な提案だということは理解している。その上で条件はきちんと整えて提示するつもりだ。金銭面や仕事面、もちろん生活する上での自由も保証する。君にもちゃんとメリットがある契約にするつもりだ」

 (契約……)

 つまりこれは、ビジネスライクな契約結婚ということだ。

 「待ってください…どうして、それが私なんですか?」

 これだけの美貌と知名度もあって、将来も嘱望されている天才外科医。
 たとえ契約結婚とはいえ、もっと選べる立場のはずだ。何もつい最近会ったばかりの自分じゃなくても――と思わずにはいられない。

 「君のことを、誠実で信用できる人間だと思っているからだ」

 ただ事実を述べるように、真澄はさらりと告げる。

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