その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 澪の答えに、今度は真澄の表情が動揺に揺れた。

 驚き、困惑、意外――普段は感情を表に出さない彼の目が動いたのが、澪の目にもはっきりと映った。

 「正直、もっと時間がかかると思っていた。まさかこの場で了承されるとは」

 自分で言い出しておきながら戸惑っているらしいその口ぶりに、澪は思わず笑ってしまった。

 「……本当にいいのか?」
 「どうしてそんなに驚くんですか?」
 「だって自分勝手な提案だろう?縁談を断るための契約結婚なんて、普通は反発されても仕方ない」
 「そのことなら大丈夫です……お互い様だと思うので」

 きっぱりとした声音でそう答えると、真澄が不思議そうな顔をした。

 たぶん、彼にとってこの契約結婚はあくまで自分の都合のため。相手が《《対等な目的》》を持っているとは、想像していなかったのかもしれない。

 「私も――この提案を利用しようと思っていますから」

 わずかに目を見開く真澄の視線を受け止めながら、澪は深く息をついた。

 (――そう、私もこの契約結婚を利用しようと考えている)

 これは取引で契約。
 正義感でも、ましてや恋心でもない。

 ただ現実と向き合って選び取った答え。

 「……分かった。君にとって悪い話じゃなかったと思えるよう努力する」
 「よろしくお願いします」

 これが、二人の『名前だけの契約結婚』が一歩進みだした瞬間だった。

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