その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています

第二章 かりそめの結婚

 二週間後のとある週末。

 送られてきた住所を頼りに、澪は真澄の暮らすマンションを訪れていた。

 ガラスと石材を組み合わせたモダンなデザインな外観の高層マンション。駅から近いはずなのに周囲は驚くほど静かで、敷地内に一歩入った瞬間から別世界のようだった。

 (こ、ここで合ってるんだよね…?)

 広いエントランスの磨き上げられた床は鏡面のように輝いて、空間に響く自分の靴音に緊張感が増す。高級ホテルのようなフロントにはコンシェルジュが控えていて、案内されたエレベーターに乗りこむ。

 やがてエレベーターが止まり、扉が開く。目の前に広がるのは、モノトーンを基調としたゆったりとした広さの廊下。
 アートギャラリーのように壁に飾られた現代的な絵画と、静謐な雰囲気を壊さない照明。マンションというより、まるで美術館のようだった。

 あまりの非日常さに、思わず立ち止まりかけたそのとき。

 「こっちだ」

 奥のドアがカチャリと開いて、中から現れた真澄が落ち着いた声で澪を呼び寄せた。

 部屋の中は白とグレイを基調としたモダンな空間。広々としたLDKには、ダイニングテーブルと低めの大きなソファ。大理石の床が足元に広がり、天井から吊るされた間接照明が柔らかい光を落としている。

 奥の壁一面が大きなガラス窓になっていて、そこからは都心のビル群と空が広がっていた。
 真澄が暮らすのは最上階エリアと呼ばれる三十八階。地上からの高さを考えれば、都心のすべてを見下ろすような場所だった。

 「……すごいですね…」

 無意識にこぼれた澪の呟きに、真澄は少しだけ首を傾げる。

 「何が?」
 「全部です、部屋の広さもこの景色も…何だかホテルみたいで」
 「そんなに緊張するな。結婚したらここに住むことになるんだから、慣れておいたほうがいい」

 真澄からの一言に、澪は思わず振り返る。

 (そうか、ここに住むことになるんだ私……)

 「不満か?」
 「いえ、そういうわけじゃ!ただあまりに立派すぎて…」

 この人と結婚して、この部屋に自分が妻として暮らす。そのことがまだうまく想像できなかった。

 「大したことはない。病院から近くて静かに暮らせる環境、それだけで選んだ」

 そこにこだわりのようなものは一切ない。本当に合理性だけで選んだのだと分かる口ぶりで、この人らしい。

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