その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「こっちで話をしよう」

 大きなダイニングテーブルにはすでにファイルや筆記用具、付箋などが用意されていた。テーブルを挟んで、澪と真澄は向かい合わせに座る。

 「こちらで結婚にあたっての取り決めをまとめてみた。確認してほしい」

 真澄はそう言って、目の前の資料を軽く指で示した。

 整然と並べられた条項。生活費に関する金銭面から、お互いの私生活の自由、離婚を希望する場合は事前協議を経ることなどがかなり具体的に書かれていた。

 (これ以上ないくらいに整いすぎてる……)

 箇条書きで書かれた条項は一切の感情を挟まない内容で、完璧主義というのは噂通りなんだなと目を丸くする。

 「……思ったより細かいんですね」
 「契約と呼ぶ以上曖昧な部分は残すべきではないからな。知り合いの弁護士に、内容は伏せた上で法的効力のある形式に整えてもらっている」

 (本当に、この結婚は契約なんだ…)

 けれど、それが柊木真澄という人の誠意なのだと澪は思った。
 これがこの人なりの、責任の取り方なのだと。

 「条件について、何か質問は?」

 一通り確認したあと、澪はふと気になったことを口にした。

 「この、生活費全般が柊木さんの全額負担という部分なんですが、私も負担したほうがいいんじゃないかと…」
 「その必要はない。俺が提案した契約なのだから、必要なコストは俺が引き受けるのが筋だろう」

 (それはありがたいけど…)

 ただ、完全にお世話になるというのは気になってしまう。自分も一緒に暮らすわけだし、仕事も続けるのだから収入もある。

 (でもこのマンションの家賃、いくらするんだろう…高層階だし絶対高いよね?)

 外観やエントランス、そして内装の豪華さを思い出すと不安がよぎる。
 そんな澪の沈黙に、真澄がふと小さく息をついた。

 「どうしても気になるのなら、光熱費を折半にするか?」

 顔を上げると、真澄の視線がまっすぐにこちらを見ていた。

 「あ…はい、あとできれば食費も」
 「分かった。修正してくるから待っていてくれ」

 そう言って真澄は立ち上がり、奥の書斎へと姿を消す。程なくして戻ってきた彼の手には、数枚の新しい書類があった。

 「印刷し直してきた。確認してくれ」

 生活費の項目については、きちんと澪の意見が反映されていた。

 この人は、自分のルールで生きている。
 でもそれを押しつけるだけではないことが分かって、澪の中にあった不安が少しだけ軽くなった。

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