その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「あら、今日は新人さん?」

 通用口受付とまったく同じ問いかけに内心で苦笑してしまう。でもそれだけ今の担当者が顔を覚えられて、信頼されている証拠だ。

 「いえ。今日は担当者が体調不良になってしまいまして、その代理です」

 澪はにこやかに納品分を手渡す。そのとき、窓口のスタッフが「あっ」と声を上げた。

 「そうだ、第一外科から追加発注の書類が届いてたんです。『セリスの方が来たら渡してほしい』って」
 「第一外科の先生が、直接ですか?」
 「そうなんです。急ぎみたいで……お願いできますか?」

 通常はシステムからのデータ発注が基本だ。けれど、緊急手術や急患の対応で在庫が足りなくなったり、システムの不具合があったときなどは、こうして紙ベースで直接依頼が来ることも稀にある。

 「分かりました。確認しますね」

 差し出された発注書に目を走らせて、眉がわずかに寄る。

 (あれ……?)

 「すみません。この静注薬なんですけど品番が旧規格のものみたいで、ロットも違うようなんですが……」

 スタッフは用紙を受け取って数秒見つめ、やがて少し困ったように言った。

 「医師の指示も絡んでるので、医局で確認してもらえますか?」
 「……え、医局ですか?」

 一瞬だけ、澪の表情が固まる。薬剤部とのやりとりなら他の病院でも対応して慣れている。けれど医局、つまり医師本人となると話は別だ。しかも第一外科は主戦場と呼ばれるほど、病院内でも特に緊張感があるとされる部署。

 とはいえ、これは仕事だ。

 (緊急の発注ということは一刻を争うはずだし…)

 「分かりました、行ってきます」
 「よろしくお願いします。第一外科は五階ですので」

 澪は頭を下げて、急いで外科棟へと向かう。教えられた通りに五階に到着すると、エレベーターを降りた瞬間から空気が変わった気がした。

 (ここが……第一外科)

 一般の患者が出入りするロビーや病棟とは違って、どこか張り詰めた緊張感が漂っている。誰もが黙々とそして機敏に仕事をこなしている気配に、自然と背筋が伸びた。

 澪は左手にある『第一外科医局』と書かれたプレートの前で一度息を整えてから、インターホンを押す。中から応じた看護師に事情を伝えると「少しお待ちください」という返答のあと、セキュリティドアのロックが外れて扉が開いた。

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