その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
第四章 夫婦の距離
朝のキッチンに、トーストの香ばしい香りと湯気を立てるコーヒーの香りが漂っていた。
真澄のマンションに暮らすようになって、一週間。最初はどこかぎこちなかった『結婚生活』も、少しずつ日常という輪郭を帯びはじめている。
「コーヒー、もう少し濃くしたほうがよかったですか?」
エプロン姿のままカップをテーブルに置いてそう訊ねると、真澄がちらと視線を向けた。
「いや、ちょうどいい。今日のは特に香りがいいな」
「……ありがとうございます」
(褒められるのは嬉しいんだけど……)
入籍二日目のキス以来、確実に甘さが増している気がする。今ではすっかり『夫婦らしく』が免罪符にされていて、気がつけば彼のペースに巻き込まれている。
戸惑いとかすかな困惑を胸に抱えたまま、澪は真澄の差し出した食器を片付けながら小さくため息をついた。真澄はすでにシャツに袖を通しており、ちょうどネクタイを手にして振り向いた。
「澪、ネクタイ結んでくれないか?」
「え、私がですか?」
「そう。こういうのも夫婦っぽくないか?」
さらっと言われて、思わず目を瞬かせる。
「私、やったことないですけど……」
「じゃあ教える」
そう言いながら澪の手を取って、自分の胸元へ導いた。添えられた指先が手の甲に重なる。
(……またこれだ)
こうやってあっさりと距離を詰めてくる。
「ここのクロスを重ねて、輪を作って……」
「え、ちょっと待ってください、ここ?こっち?」
「意外と不器用なんだな」
くすっと笑われて、澪は頬を膨らませる。そもそも真澄は外科医だ。きっと手先は器用なはずだし自分でやったほうが絶対に早い。
「それじゃ意味がない」
「いったい誰へのアピールなんですかこれ……」
ここまで忠実に新婚生活を再現する必要なんてないはず。一般の新婚家庭はこんなことを毎朝しているのだろうか?
真澄のマンションに暮らすようになって、一週間。最初はどこかぎこちなかった『結婚生活』も、少しずつ日常という輪郭を帯びはじめている。
「コーヒー、もう少し濃くしたほうがよかったですか?」
エプロン姿のままカップをテーブルに置いてそう訊ねると、真澄がちらと視線を向けた。
「いや、ちょうどいい。今日のは特に香りがいいな」
「……ありがとうございます」
(褒められるのは嬉しいんだけど……)
入籍二日目のキス以来、確実に甘さが増している気がする。今ではすっかり『夫婦らしく』が免罪符にされていて、気がつけば彼のペースに巻き込まれている。
戸惑いとかすかな困惑を胸に抱えたまま、澪は真澄の差し出した食器を片付けながら小さくため息をついた。真澄はすでにシャツに袖を通しており、ちょうどネクタイを手にして振り向いた。
「澪、ネクタイ結んでくれないか?」
「え、私がですか?」
「そう。こういうのも夫婦っぽくないか?」
さらっと言われて、思わず目を瞬かせる。
「私、やったことないですけど……」
「じゃあ教える」
そう言いながら澪の手を取って、自分の胸元へ導いた。添えられた指先が手の甲に重なる。
(……またこれだ)
こうやってあっさりと距離を詰めてくる。
「ここのクロスを重ねて、輪を作って……」
「え、ちょっと待ってください、ここ?こっち?」
「意外と不器用なんだな」
くすっと笑われて、澪は頬を膨らませる。そもそも真澄は外科医だ。きっと手先は器用なはずだし自分でやったほうが絶対に早い。
「それじゃ意味がない」
「いったい誰へのアピールなんですかこれ……」
ここまで忠実に新婚生活を再現する必要なんてないはず。一般の新婚家庭はこんなことを毎朝しているのだろうか?