その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 ◇◇◇◇

 再び、あの蒼林大学病院を訪れることになったのは三日後のことだった。緊急の追加発注分について、柊木先生の指名という形で納品依頼があったらしいのだ。

 「前回の対応がよかったんじゃない?」

 上司は軽く笑っていたが、澪は内心身構えていた。

 (どうして私に…?)

 代理で行ったあの日は偶然品番ミスに気づいた。でもあくまで業務の一環で、誰がやっても同じ結果になったはず。

 (もしかして、勝手に医局に行ったことが問題になっているんじゃ…?)

 あのときの冷ややかな態度を思い出す。対応がよかったどころか、直々の叱責もしくは出禁…?とどんどん悪い方向に想像が膨らんでしまう。

 「そういえば小野寺さん、この間柊木先生と話したんでしょ?」

 そう話しかけてきたのは、近くの席で作業をしていた先輩だった。

 「えっと…はい、追加発注の件で少しだけ」
 「どんな感じだった!?やっぱかっこよかった?」
 「羽田さん、めちゃくちゃ食いついてきますね…」

 どう表現するべきか言葉を迷う。

 美形すぎて現実味がない、というのが第一印象だった。そして何より、一切の無駄を嫌うような冷静な態度。整いすぎた容姿と他者を圧倒する隙のなさが、人間らしさから遠ざけているような――でも、それだけではなくて。

 「少し怖かったですけど、なんというか…人を見る目が鋭い人でした」
 「へぇ、それってどういう?」
 「体調のことまで言い当てられたんですよ。寝不足気味なこととか口内炎ができていることまで見抜かれていて…」
 「えぇ!?何それすごすぎない!?」
 「ほんとすごいですよね、お医者さんって」

 そう言って笑うと「違う違う、そうじゃなくて!」と身を乗り出してくる。

 「柊木先生って腕はピカイチだけど、完璧主義で情は挟まないって有名なの。だから、そんなふうにフランクに話しかけられたのがすごいってこと!」
 「そ、そうなんですか…?」

 蒼林大学病院は、母親がお世話になった病院だった。けれど、澪にとっては必ずしもいい思い出ばかりとはいえず、蒼林に関わる話題や情報からはなんとなく距離を取っていた。そのせいもあって、澪は柊木真澄という医師の名前は知っていたものの、その実績や人となりは詳しく知らずにいたのだけれど。

 (完璧主義で情は挟まない、か…)

 澪はもう一度、あのときの言葉と眼差しを思い出してみる。

 ――仕事も大事だが、自分の体も少し労わったほうがいい。

 あれが情ではなかったのなら、なんだったのだろう。
 考えれば考えるほど答えは出てこなくて、澪は曖昧に笑ってから立ち上がった。

 「たぶん、初対面だったから気まぐれじゃないですか?」
 「えー、そういうものかなぁ?」
 「そうですよ、それじゃあ納品に行ってきます」

 澪は気持ちを切り替えるようにして、営業所から出発した。

< 7 / 127 >

この作品をシェア

pagetop