裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
樹が和葉に向かって手を伸ばした。
「あんま、まーま」
「なんだよ樹、ママがいいのかよ。じゃあママのとこ行くか? かずちゃんトランクはボクが持つよ」
啓の言葉に頷いて、和葉は樹を抱きとった。
「おいで」
悪いことをしている時のように和葉の胸はドキドキとする。が、そんなやり取りなど聞こえていないように、男性はぴくりとも動かない。
彼と和葉は、かつては家族ぐるみの付き合いだったし、同じ会社の上司と元部下という関係でもある。久しぶり、くらい言い合ってもおかしくないが、どうやら向こうにそのつもりはないようだ。彼の中で、和葉との出来事は無かったことになったのだろう。
息が詰まりそうだと思ったのは一瞬で、ポーンと音がしてエレベーターは停止する。三階に着いたのだ。ドアが開き目の前に、ざわざわと喧騒が広がった。
『開』のボタンの押す男性のそばを通り、和葉は啓とともにエレベーターを降りる。一瞬迷ってから振り返ると、視線の先でドアが閉まる。上昇するスケルトンのエレベーター内、制服姿の男性を見つめ、和葉は樹を抱く腕に力を込めた。
彼、橘遼一は、最愛の息子の父親であり、かつて和葉が愛した人。
直接会うのは、婚約破棄の話し合いの場以来だった。
百八十オーバーの長身に、黒くて少し硬い髪、はっきりとした眉と切れ長の目、すっと通った高い鼻梁、意志の強そうな口もとは、記憶の中の彼そのままだった。
もともとそうだと感じていたが、実際に目にするとやはり樹は彼によく似ている。
一方で、和葉の方はこの二年でずいぶん変わった。
日本にいた頃は、カットソーとスカートといったフェミニンな服装を心がけていた。色は染めていなかったが、セミロングの髪の手入れも怠っていなかった。
『和葉って本当、お嬢さまって感じだよね』
仲良しの同僚には、よくそうからかわれたものだ。
それは、和葉自身の好みというよりは、大企業の役員だった父と専業主婦の母の間に生まれたひとり娘としてそうするのが正解だと思っていたからだ。
「あんま、まーま」
「なんだよ樹、ママがいいのかよ。じゃあママのとこ行くか? かずちゃんトランクはボクが持つよ」
啓の言葉に頷いて、和葉は樹を抱きとった。
「おいで」
悪いことをしている時のように和葉の胸はドキドキとする。が、そんなやり取りなど聞こえていないように、男性はぴくりとも動かない。
彼と和葉は、かつては家族ぐるみの付き合いだったし、同じ会社の上司と元部下という関係でもある。久しぶり、くらい言い合ってもおかしくないが、どうやら向こうにそのつもりはないようだ。彼の中で、和葉との出来事は無かったことになったのだろう。
息が詰まりそうだと思ったのは一瞬で、ポーンと音がしてエレベーターは停止する。三階に着いたのだ。ドアが開き目の前に、ざわざわと喧騒が広がった。
『開』のボタンの押す男性のそばを通り、和葉は啓とともにエレベーターを降りる。一瞬迷ってから振り返ると、視線の先でドアが閉まる。上昇するスケルトンのエレベーター内、制服姿の男性を見つめ、和葉は樹を抱く腕に力を込めた。
彼、橘遼一は、最愛の息子の父親であり、かつて和葉が愛した人。
直接会うのは、婚約破棄の話し合いの場以来だった。
百八十オーバーの長身に、黒くて少し硬い髪、はっきりとした眉と切れ長の目、すっと通った高い鼻梁、意志の強そうな口もとは、記憶の中の彼そのままだった。
もともとそうだと感じていたが、実際に目にするとやはり樹は彼によく似ている。
一方で、和葉の方はこの二年でずいぶん変わった。
日本にいた頃は、カットソーとスカートといったフェミニンな服装を心がけていた。色は染めていなかったが、セミロングの髪の手入れも怠っていなかった。
『和葉って本当、お嬢さまって感じだよね』
仲良しの同僚には、よくそうからかわれたものだ。
それは、和葉自身の好みというよりは、大企業の役員だった父と専業主婦の母の間に生まれたひとり娘としてそうするのが正解だと思っていたからだ。