裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 実家を出て遼一のところへ向かう途中、和葉は彼の携帯を何度も鳴らしたが繋がらなかった。今日、何時に歩美と会うのかは知らないが、見合いなら通常は午前中にすることが多い。なら今は真っ最中かもしれない。
 だとしたらどこへ行けば彼に会えるのかわからなかった。
 それでも和葉はほとんど走るようにして駅へ行き電車に飛び乗った。向かっているのは遼一のマンションだ。いや正確にはかつて彼が住んでいたマンションだ。
 今、彼がどこに住んでいるのか、和葉は確認していない。必要ないと思っていたからだ。
 別れる前に遼一が住んでいたのは空港から電車で一時間弱の場所にある底層階のマンションだ。幾つかの棟が点在している広い敷地はゲートに囲われ外部の人が入れないようになっている。緑豊かで安全なのが気に入って結婚に向けてふたりで決めた場所だ。
 ファミリー向けの物件なので、ひとり暮らしなら広いし、ライフラインを重視して場所を選んだので、空港へのアクセスだけを考えたらもっといい場所がある。
 だから当然そこにはもう住んでいないと思っていた。
 ……つい、さっき父の話を聞くまでは。
 マンションへ着くと、和葉はまずポストを確認する。そしてふたりが一緒に住むはずだった部屋番号の場所に「TACHIBANA」とあるのを見て、力が抜けて、座り込みそうになった。
 彼はまだここに住んでいる。
 ふたりで幸せになろうと誓ったこの場所に。
 エントランスの電子パネルに部屋番号を入力すると、呼び出し音が二回して遼一の声が聞こえた。
「……和葉?」
「遼一、い、いきなり来てごめん。け、携帯も鳴らしたんだけど……。私、どうしてもあなたに聞きたいことがあって」
 息を整えながらカメラに向かってそう言うと、すぐにゲートが解除された。
「とりあえず、入って」
 拒否されなかったことに安堵して、ゲートの中に入る。中はちょっとした公園のようになっていて建物が点在している。和葉は再び部屋までの通路を駆けた。部屋ではドアを開けて遼一が待っていた。
 ジャケットは着ていないが、シャツとネクタイを身につけている。見合いはこれからなのだろうか。
「和葉、着信に気が付かなくて悪かった。どうしたんだ? なにかあったのか?」
 驚きつつ、眉を寄せて心配そうにしているのは、いきなり来たので、緊急事態だと思ったのだろう。
 息が切れてすぐには話せない和葉を中へ促す。
「寒いから、中へ入って」
 部屋の中に入りリビングへ移動する。
 なにから聞けばいいか、考えがまとまらないままに、縋り付くように遼一の腕を掴み、彼を見上げて問いかけた。
「遼一、婚約破棄は……お父さんが刑事告訴されないため? あなたは私たち家族を守ってくれてた?」
 新たな事実を知った和葉が、ここに来る間に導き出した答えだった。
 取締役でもなく経営にタッチしていなかった彼が、父の刑事告訴を止められたとしたら、それは、社長に親子だったという繋がりがあるからだろう。けれど彼の父親は、ただ頼んでどうにかなる相手ではないように思えた。遼一の父親は、有能な経営者ではあるが、その分冷酷で会社のためだとなると身内も切ると言われている。
 遼一は交渉にあたってなにか代わりとなる……相当な犠牲を払ったのではないだろうか。
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