裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 本当に馬鹿だと思うけれど、その時になって和葉は、告白しようと思うきっかけとなった母の言葉を思い出したのだ。
 遼一の結婚相手は"それなりのお相手"でなくてはならない。
 ——だから遼一は自分と付き合っていたのだろうか?
 和葉が結婚相手として相応しいから……?
 忘れていたのは、彼も和葉を好きだと言ってくれたから。
 愛してると何度も囁いてくれたから。
 だから和葉はこの瞬間まで、自分たちは愛し合って結婚を決めたのだと思っていた。
 けれどそれに思い当たった時、パズルのピースがはまるように、これまでの彼との出来事に納得ができたのだ。
 妹としか見られていなかったはずなのに、告白を受け入れてくれたこと。
 愛してると言ってくれたこと。
 父が倒れた途端に、彼が態度を豹変させたこと。
 はじめから自分は彼に愛されてなどなかった。
『愛してる』という彼の言葉は、橘家の長男の結婚相手として合格だという意味にすぎなかった。そして、そうではなくなったから捨てられた……。
 今から考えると、それでよかったのだと心底思う。彼の本性を知らないまま結婚するよりは、事前にわかった方がいい。
 けれどその時の和葉は、彼からもらった愛の言葉と受けた仕打ちの乖離に苦しみ、深く傷つき悲しんだ。
 時期を同じくして、会社からは退職を勧められたが、こちらについてはすぐに納得した。和葉の入社は父あってのもの。どれだけ真面目に働いたかなど関係ない。
 引き継ぎもろくにさせてもらえずに退職した和葉は父の看病や在宅介護の手続きに専念した。娘の窮地と倒れた夫の介護に母も相当参っていて、お互いに支え合わなくてはいけない状況だった。あの頃の記憶は途切れ途切れだ。
 覚えているのは、泣きながら見ていた過去の遼一からのメッセージと、いつまでたっても繋がらない通話の画面。
 そんな日々だったから、妊娠に気がついた時はすでに四カ月を過ぎていた。
 もちろん子供の父親は遼一しか考えられない。
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