裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
最悪の再会
 ポーンという音がして、ベルト着用のサインを知らせるランプが点灯する。
《皆さま、お疲れさまでございます。当機はまもなく定刻通り、成田空港に着陸いたします。現地の時刻は……》
 アナウンスが機内に流れるのを聞いて、寺坂和葉(てらさかかずは)はホッと肩の力を抜いた。隣の席の息子、樹(いつき)はご機嫌で窓にかじりつき、東京上空の景色を眺めている。ホノルル空港で買った飛行機のおもちゃを手にしっかりと握っていた。
「いっくん、飛行機もうすぐ着くんだって。危ないからシートベルトガッチャンしようね」
 声をかけて、座席にしっかりと座らせてシートベルトを着ける。彼は素直に従った。
 ホノルル空港から成田空港までのフライト時間は直行便で九時間弱。途中、就寝時間を挟むフライトスケジュールだったから、和葉ひとりならそれほど疲労を感じることはないはずだ。けれど動きたい盛りの一歳三カ月の男の子を連れている今回は、精神的に過酷だった。
 フライト中、彼が退屈してぐずったり騒いだりしないかと和葉はずっと神経を張り詰めていた。さいわいよく寝てくれたし、それ以外の時間は座席画面の子供用チャンネルを見たりお気に入りのおもちゃで遊んだりして機嫌が悪くならなかったから、なんとか周囲に大迷惑をかけずに乗り切れそうだ。
「ボク、とってもいい子にしてたね」
 通路を挟んだ隣の席の女性が樹に視線を送ってにっこりと微笑んだ。和葉の母親くらいの年齢だろうか。
「ありがとうございます。騒がしくしてすみません」
 泣きはしなかったとはいえ大人の乗客よりは賑やかな場面もあったはずだ。
「ぜーんぜんそんなことなかったよ。今もお外に興味津々ね。お空綺麗ね」
 女性は樹にも声をかけるが、やっぱり彼は窓の外に夢中だった。
「いっくん、お空きれいね」
 和葉も樹に声をかけるが、耳に入らないようだ。
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