裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 ゴールデンウィーク明けの関東の空は快晴で、窓から見える航空機の翼の白が眩しいくらいだ。
 女性がふふふと笑った。
「ボクは、飛行機ははじめて?」
「四カ月の時に一度。でもその時はほとんど寝ていましたので」
「それじゃなにもかもが珍しいね。よっぽど空が気に入ったみたい。飛行機のおもちゃもしっかり持って。将来はパイロットになるのかな?」
 女性の言葉に、和葉はひと呼吸置いてから口元に笑みを浮かべた。
「なんとかご機嫌で乗り切れそうでよかったです」
「ハワイへはご旅行で?」
「いえ、私はハワイに住んでて……あ、住んでた、かな? 仕事の都合でしばらく日本に帰国するんです」
「あら、そうなの? お子さんまだ小さいのにすごいわね。どんなお仕事?」
「パンケーキ屋です。『HOPHOP』っていうお店なんですけど、今度日本に出店するのでそのオープニングスタッフとして」
 HOPHOPは、ハワイに四店舗を展開する今ハワイで話題のパンケーキ屋だ。
「あら、HOPHOP! 私たち昨日行ったわよ。すごくおいしかった。生地がほわほわで優しい甘さで。なによりお店のスタッフさんが皆フレンドリーなのがよかったわ。すごく気に入ったんだけど、ハワイにしかないから次に来られるのはいつだろう?って思ってたの」
 思いがけない女性からの褒め言葉に、和葉の頬に自然と笑みが広がる。
「そうなんですか? ありがとうございます。ご来店いただいたのはモールの中の?」
「そうそう、すごく並んでいたのでどうしようかと思ったんだけど、娘がどうしてもっていうので。本当においしかったわ」
 そう言って女性は和葉とは反対側の席に視線を送る。会話を聞いていたと思しき若い女性がにっこりと笑って口を開いた。
「SNSでバズってたから、絶対に行きたかったんです。日本にもできるんだ。いいこと聞いちゃった。どこにできるんですか?」
「えーっと、今決まっているのは空港内のフードコートです」
 HOPHOPはもともとは、ハワイの現地住人に人気がある店だった。けれど半年前に、日本のインフルエンサーがSNSで紹介したのをきっかけに特に日本の観光客に知られる存在になった。ホノルルの中心部に位置する大型モールにオープンした四号店は、連日行列ができるほどの盛況ぶりだ。
 オーナーで和葉の叔母でもある吉原百合子は、この波を逃さないとばかりに日本への出店を決めた。彼女はハワイでは敏腕経営者として少し知られた存在だ。
 とはいえ、いきなり路面店では多くの資金が必要だし、市場調査も十分にできているとは言えない。メニューがパンケーキのみというのも不利なので、まずは空港のフードコートへ出店し様子を見ようという話になったのだ。
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