裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
「え? そう?」
《うん、やる気満々じゃん。そりゃNANAにいた時も真面目にちゃんと仕事していたけど、どっちかっていうと言われたことを素直にしっかりこなすって感じだったじゃない? 企画会議とかそういうとこではあまり意見を言わなかったし。向上心がないとまでは言わないけど……》
「あーそれは確かにそうです」
 グランドスタッフの仕事も好きだったけれど、父親から結婚までだと言われていて自分としてもその意識でいた。
 出世とは無縁の立ち位置だったから、与えられた仕事を正確にこなすことに終始していた。口に出さなかったけれど、そういった気持ちは仕事への姿勢に出ていたのだろう。
 本当に考えが甘かった。
 麻衣子の言葉に思いを馳せて沈黙した和葉に、麻衣子が少し慌てたような声を出した。
《和葉? ごめん、嫌な言い方だった?》
「ううん、違う違う、そうじゃなくて、本当にそうだったなあって思ってただけ。なんか私、いつも周りのアドバイスに従って生きてたんだよね。仕事も楽しかったし稼いでるんだから社会人になれたって思ってたけど、よく考えたら父親が役員の会社で働いてるなんて世間では自立してるって言えないよね」
《それは仕方がないよお。和葉お嬢さんだもん。違う会社に就職したいなんて、そんなの許されなかったんじゃない? お嬢さまにはお嬢さまの事情がありますから》
 冗談めかしてそう言う麻衣子に、今度は和葉はふふふと笑った。
《だけど和葉みたいなお嬢さまも珍しいんじゃない? 私、はじめは副社長の娘なんて、ちゃんと仕事するの?って疑ってた。でも和葉、誰もやりたがらない仕事率先してやるし、チームのみんなもびっくりしてたじゃん》
 いい仲間に恵まれて楽しく働いたことを和葉は懐かしく思い出した。
《でさ、和葉さえよければあの頃のチームの皆にも和葉が帰って来てるって伝えてもいい? 皆きっと会いたがるよ。辞めた時、すごく心配してたもん。お父さんのことと関係してるのは察しがついたから、和葉は関係ないって上司に意見した子もいたくらいだし。私はそれ以外の事情も知ってたから仕方がないって思ったけどさ》
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