裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 確か彼女は遼一と大学時代の同級生で入社前からの顔見知り。二足の草鞋を履くために、気心の知れた優秀な彼女を秘書につけたといったところだろうか。
 樹が細長いブロックを「ぶーん、ぶーん」と言いながら飛行機のように飛ばしているを見つめながら、和葉はそんなことを考える。
《……和葉? 大丈夫? ごめん、変な話しちゃったかも。歩美さんに連絡取るならこういう話も聞くだろうし、和葉が驚かないように私から言っておいた方がいいかなと思ったんだけど》
「いやいや、大丈夫。聞いておいてよかったよ。ありがとう。私、橘さんのことはもう完全に吹っ切れてるんだけど、ちょっと驚いちゃって。あまりにも私が知ってた彼と違うから。まぁ、だからこそ別れてよかったって思えるんだけどさ」
「だね。でも私も橘さんの二面性にはびっくりだよ。橘さん、今は現場統括担当の取締役なの。橘さんが昇格してからパイロットとCA、グランドスタッフの職場環境の改善とかシステムの見直しが入って、すごくやりやすくなったんだよ。それでいて態度は今までとまったく変わらないから上に対する意見とかも言いやすいって皆すごく喜んでて……さすがは橘さんだって言ってる。だけど和葉にしたことを知ってるから正直私は微妙だよ……」
 彼の人望は誰もが認めるところで、後輩たちには慕われ年配の機長たちにも可愛がられていた。おそらくはその人当たりのよさを今も保ち続けているのだろう。でなくては、取締役でありパイロットでもあるなんて難しい立場にいられるはずがない。
 ずば抜けた優秀さで橘家の御曹司でありながら、それをまったく鼻にかけない気さくな人。
 その彼にあんなに冷酷な一面があるなんて、和葉も自分の目で見ていなければ、とても信じられなかった。
 ……とはいえ、すべて今の自分には関係ない話だと思い直す。そして関係あることを聞く。
「じゃあ、空港へはあまり来られないのね?」
 彼がそういう立場なら、本社にいる時間が多いだろう。ならば遭遇率はぐっと下がる。飛行時間を減らしているのに帰国日に会ってしまったのはアンラッキーだったが、今後は会わないで済みそうだ。そういう意味で、和葉にとってはありがたい話だ。
《あー……どうだろ? 二週間に一回は現場視察に来られるし、パイロット勤務もあるから。だけど前よりはずっと少ないかな。……和葉、なにかあったら相談してね。私には聞くことだけしかできないけど》
「うん、ありがとう」
 その後は会えそうな曜日などの話しをして、麻衣子との通話は終了した。
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