裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
「あーう?」
それを見計らったように樹が和葉にくっついて来て覗き込むように見た。
「あまあまあまあま」
部屋の中で遊んでいるだけでは退屈になってきたのだ。
ハワイの叔母の家は広くて庭もあったから、安全策を施して比較的広い範囲を自由に動き回れた。
先に帰国していた啓が契約してくれたこのマンションは、空港から近くて樹が入園可能な保育園とのアクセスと家賃を考慮して決めた好物件。でもどうしても広さは以前とは違うから、家の中にいるだけでは歩けるようになったばかりの樹は物足りないのだ。
「公園に行こうか」
今日やるべき家事はまだ半分も終わっていないけれど、このままでは泣き出すのは目に見えている。それなら先にいっぱい遊ばせて昼寝をしてもらう方がいいと判断して、和葉は手早く準備をして、樹を抱いて玄関を出た。
「おー!」
樹が指差す方を見ると、青い空を白い筋を作りながら、航空機が飛んでいく。一心に見つめる澄んだ瞳がかつての遼一と重なった。
遼一は、小さい頃から空と飛行機が大好きで、将来は絶対にパイロットになると言っていて、和葉その話を聞くのが好きだったのだ。
『大きくなったら、りょうくんのひこうきにかずはをのせてね』
『いいよ、かずちゃんはどこへ行きたい?』
『うーんとね、がいこく!』
そのための努力を惜しまずストレートで実現した彼を和葉は心から尊敬していた。
橘家のひとり息子だからといって経営陣に加わらなくてはならないという決まりはない、自分はパイロットという仕事をまっとうしたいと語る彼の澄んだ目が和葉は大好きだったのだ。
そんな思い出がある和葉にしてみれば飛行時間をギリギリまで落とし経営に関わっているという今の彼の姿は、意外すぎる話だった。
いやでも当然か、と思い直す。
社長のひとり息子である彼が経営に関わっていくのは当然だ。確か今年三十一歳だから、遅いくらいだろう。
それに、そもそも彼が自分に語ったあの気持ちも、どこまで本当だったのかわからない。条件の合う和葉と夫婦になるために"和葉が望む恋人の姿"を演じていたにすぎないのかもしれない。
——どっちにしてももう関係ないけれど。
「いこっか、いっくん」
飛行機に夢中な息子に声をかけて、和葉は歩き出した。
それを見計らったように樹が和葉にくっついて来て覗き込むように見た。
「あまあまあまあま」
部屋の中で遊んでいるだけでは退屈になってきたのだ。
ハワイの叔母の家は広くて庭もあったから、安全策を施して比較的広い範囲を自由に動き回れた。
先に帰国していた啓が契約してくれたこのマンションは、空港から近くて樹が入園可能な保育園とのアクセスと家賃を考慮して決めた好物件。でもどうしても広さは以前とは違うから、家の中にいるだけでは歩けるようになったばかりの樹は物足りないのだ。
「公園に行こうか」
今日やるべき家事はまだ半分も終わっていないけれど、このままでは泣き出すのは目に見えている。それなら先にいっぱい遊ばせて昼寝をしてもらう方がいいと判断して、和葉は手早く準備をして、樹を抱いて玄関を出た。
「おー!」
樹が指差す方を見ると、青い空を白い筋を作りながら、航空機が飛んでいく。一心に見つめる澄んだ瞳がかつての遼一と重なった。
遼一は、小さい頃から空と飛行機が大好きで、将来は絶対にパイロットになると言っていて、和葉その話を聞くのが好きだったのだ。
『大きくなったら、りょうくんのひこうきにかずはをのせてね』
『いいよ、かずちゃんはどこへ行きたい?』
『うーんとね、がいこく!』
そのための努力を惜しまずストレートで実現した彼を和葉は心から尊敬していた。
橘家のひとり息子だからといって経営陣に加わらなくてはならないという決まりはない、自分はパイロットという仕事をまっとうしたいと語る彼の澄んだ目が和葉は大好きだったのだ。
そんな思い出がある和葉にしてみれば飛行時間をギリギリまで落とし経営に関わっているという今の彼の姿は、意外すぎる話だった。
いやでも当然か、と思い直す。
社長のひとり息子である彼が経営に関わっていくのは当然だ。確か今年三十一歳だから、遅いくらいだろう。
それに、そもそも彼が自分に語ったあの気持ちも、どこまで本当だったのかわからない。条件の合う和葉と夫婦になるために"和葉が望む恋人の姿"を演じていたにすぎないのかもしれない。
——どっちにしてももう関係ないけれど。
「いこっか、いっくん」
飛行機に夢中な息子に声をかけて、和葉は歩き出した。