裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】

「フードコート……そうなんだ。空港じゃあまりしょっちゅう行けないですね」
　女性がやや残念そうな表情になった。
「もちろんゆくゆくは街中での展開も視野に入れています」
「楽しみにしています」
　そこで樹が「おー！」と声を出しシートベルトをガチャガチャしだしたので和葉はそちらに気を取られてなんとなく会話は終了する。
「もうすぐだから着けておこうね。ガタンってするよ」
「ぶー！」
　ガチャガチャするのを止められた樹は、不満そうに頬を膨らませてこちらを睨む。
「あとちょっとだから」
　ふふっと笑ってぷくぷくのほっぺを突きながら、和葉は胸が躍るのを感じていた。
　生まれも育ちも都内の和葉がハワイへ渡ったのが、ちょうど二年前の今頃。
　愛する人から婚約破棄を言い渡され、同時に仕事も失いしかも妊娠が発覚するという窮地に陥っていた和葉にハワイに来ないかと手を差し伸べてくれたのが叔母で、和葉を自身が経営する会社のスタッフとして雇ってくれた。
　つわりも軽く、妊娠の経過も順調だった和葉はハワイの叔母の家で居候させてもらいながら一生懸命働いた。当時は無理やりにでも身体を動かしていないとおかしくなりそうな精神状態だったからだ。
　もちろんお腹の子を育てるために必要に迫られていたというのもある。でもそうしてがむしゃらに働いているうちにパンケーキ屋という仕事自体を大好きになった。
　パンケーキには人を笑顔にする不思議な力があると和葉は思う。ふわふわのパンケーキを食べた後の客たちの『ＧＯＯＤ！』を聞くとこちらまで元気になる。
　日本一号店の責任者は、パンケーキ屋のマネージャーをしている叔母のひとり息子吉原啓だが、彼はハイスクール以後はずっとハワイで暮らしている。日本で働いた経験がないため、和葉が彼のサポートをすることになったのだ。
　つらい思い出がある日本に戻ることを心配そうにしながらも、お願いできないか？と叔母から尋ねられた時、和葉はふたつ返事で頷いた。