裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 逃げるようにして日本を後にしてから約二年。
 常夏の島の暖かい空気と、朗らかな人たちとの触れ合いが傷ついた心を癒やしてくれた。大好きな仕事があり大切な息子がいる今、もう過去は振り返らないと決めている。
 悲しい思いをした場所に戻っても過去に引きずられないという自信があった。不安がないわけではないけれど、今はとにかく絶対に日本一号店を成功させて、日本中にHOPHOPのパンケーキを広めたいという希望でいっぱいだ。
 高度が下がり、飛行機は着陸体制に入る。
 ゴーッという音に、樹が興奮してきゃっきゃっと声をあげた。離着陸時は耳が痛くなったり揺れる機体に怖がる子供も多いと聞くがまったく平気なようである。
 目を輝かせる彼の横顔を見つめながら、和葉はほんのりと複雑な気持ちになった。
 くっきりとした眉と大きくて黒目がちの目。意志の強そうな口元は、彼の父親にそっくりだ。
 少し下がったまなじりと年より若く見られがちな顔つきで柔和な印象の和葉とはあまり似ていないとよく言われる。アジア人の見分けが苦手だと言うハワイの友達からも、指摘されるくらいだった。
 外見が実の父親に似るのは当たり前。
 ——でも。
『将来はパイロットになるのかな?』
 血が繋がっているというだけで、物事の好みまで似るのものだろうか?
 生まれてから一度も会ったことがないのに。
「あんまんま!」
「うんうん、もうすぐ着くよ」
 近づく地上の景色に興奮して腕をぶんぶん振る樹の髪に、身を屈めてキスをする。石鹸と汗とクッキーの香りを感じていると、ガタン、ゴーッという衝撃と共に、航空機が滑走路に着陸した。
 
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