裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
「そうします。ありがとうございます」
 硬い声で返事をして、和葉もそそくさと樹の隣に乗り込んだ。
 車は静かに発車する。
 窓の外を流れる景色に樹が嬉しそうに「おーうおーう」と声をあげるのを聞きながら、そりゃ子供には優しいでしょ、と心の中で呟いた。
 そんなの社会人としての常識の範囲内だ。
 だけど心の中は違うはず。表面上優しいように見せているだけで、彼の本性は自分に必要のない人間は即座に切り捨てる冷酷な人なのだから。
 二年前に嫌というほど思い知らされ、今は太陽が存在するのと同じくらい自分の中で当たり前となったその事実を、頭の中で何度も何度も繰り返した。
 どうしてか今は、そうしないといけないような気がしていた。

 久しぶりの車にしばらくハイテンションだった樹だが、マンションに一番近いコインパーキングにつく頃には夢の中だった。色々なことがあったから、疲れたのだろう。
 眠る樹を和葉が抱き遼一と三人で部屋へ向かう。家に入り、和葉はまず樹を和室へ寝かせる。ダイニングを仕切る引き戸を閉じて振り返ると、遼一は玄関で待っていた。
「上がってください。コーヒー淹れます」
 さすがに今日はそのまま帰ってもらうわけにいかない。
「お邪魔します」
 和葉からの申し出を遼一は素直に受け入れて、リビングダイニングにやってくる。
「座ってください」
 テーブルの椅子をさし示して促すと彼はそこに腰を下ろした。
 慌てて救急車に乗り込んだから、部屋は雑然としていた。リビングには取り込んだ洗濯物がそのままになっているし、おもちゃも散らばっている。
 一瞬和葉は恥ずかしい気持ちになるけれど、すぐにどうでいいと思いなおす。彼は自分に関係のない人だから、どう思われようとどうでもいい。
 同時にそんな自分に苛立った。
 こんな風に思うの何回目?
 彼のことを考えかけて、関係ないと打ち消す。本当に関係ないのだからそもそもがわざわざ確認する必要すらないはずなのに……。
 一方で遼一は、部屋の中の様子を特に気にする素振りはなく和室を仕切る引き戸を見つめている。
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