裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 ホームで電車を待っていると、携帯にメッセージが入る。ポップアップに表示された名前は、ようやく登録した遼一だ。
 なんだろう?と首を傾げる。
 保育園の件でやり取りした後は、彼から連絡は来ていない。子供の件についてだけ連絡をするという言葉を実行しているのだろう。それは和葉にとって好都合で安心だった。
 だからこのメッセージもきっと保育園に続く樹に対するなにかだろうと思い軽い気持ちでメッセージを開き、一読してギョッとする。
《今、和葉のマンションの近くにいるんだけど、行ってもいいか?》
 いきなり用件も告げないで訪問したいなんて、どういうつもりなのだろう?
 いろんなことが頭を巡るが、とりあえずまだマンションにはいないことを知らせなくては。
《まだ空港にいます。これから保育園の迎えに行くところです。どうかしましたか?》
 メッセージを送信して、来た電車に乗り込む。保育園まではひと駅だから、座席には座らずドア付近のポールを掴むと、また携帯が震えた。
《なら待ってる。渡したいものがあるから》
 あぁなるほどと、和葉は彼の意図を理解する。おそらくは弁護士に作成させた合意書を持ってくるのだろう。
 必要ないと一度は言ったが、子供の件のみでも今後関わっていくならやはり作るべきだと思い直したのだろう。
 それなら以前のように弁護士を介して進めればいいのに、と思わなくもないが、前回和葉が言ったことを考慮したのだろうか。
 直接渡すことで、今度は誠意を見せるってこと?
 前回会った時のやり取りを思い出して、胸がちくちく痛むのを感じながら、それでも言ってよかったと和葉は思った。
 あれだけはっきりと面と向かって言われて、ようやく自分のしたことに罪悪感を覚えたというわけか。今更すぎる気遣いだ。
 とはいえ、今後の関わりの方針を書面でハッキリとさせておくのは和葉としても安心だ。いちいち彼の言動の裏を感じて、なにかを期待しそうになる自分への戒めにもなる。
《了解です。家に着いたらお知らせします》
 メッセージを打って携帯を鞄にしまう。
 望むところだと、心の中で呟いて、和葉はポールをギュッと握った。
 
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