裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 渡すものがあるといきなり家に来たから何事かと思ったのに、そんな用事?
「渡してもいいか?」
 やや気まずそうに尋ねられて、和葉は思わず笑いそうになってしまう。慌てて口元を引き締めた。
「べつにいいですけど……ありがとうございます」
「あ、ああうー! まんま」
 そこで樹が我慢の限界だというように声をあげた。
「あ、ごめんごめん、いっくん。お腹すいたよね。すぐ準備するから」
 慌てて和葉は立ち上がる。もはや一刻の猶予も許さない。早くしないと泣いて暴れて手がつけられなくなってしまう。
 でも遼一と彼が持ってきたおもちゃがある、この状況をどうしようと考えていると、遼一が意外な言葉を口にした。
「作ってる間、俺が樹くんを見てようか。これで遊んでるよ」
「え? ……でも」
「今俺が帰ったら大変じゃないか? 俺もできれば樹くんがこれで遊んでいるところを見たいし」
 今この状況で遼一が帰ったら大変だというのは目に見えていた。
 お腹が空いて機嫌が悪い樹にちょっと待っててねなんて通じるわけがない。十中八九和葉は彼を足にくっつけたまま料理をすることになるだろう。仕方がないし、よくあることだけれど危ないし憂うつだ。
 しばらく迷った末に「まんまぁ!」というダメ押しの叫びを聞いて、和葉は躊躇いながら頷いた。
「じゃあ、お願いします」
 
 急いでいる時のお助けメニュー、煮込みうどんを温めながら、和葉は和室で滑走路を広げおもちゃの飛行機で遊んでいる遼一と樹を盗み見る。
「ぶーん、ぶーん」
「そう、ブンブンだ。飛行機っていうんだぞ」
「いこーき!」
「上手上手」
 あははと笑って、遼一は樹の頭を撫でている。
 樹がキャッキャと声をあげた。
 ご飯を作る間見ててもらうことにしたものの、本当は少し心配だった。実の父親とはいえ、樹と遼一はほとんど面識がない。
 もともと機嫌が悪いのだし、結局泣くのでは?と思ったけれど、全然そんなことにはならなかった。
 遼一が紙袋からおもちゃを取り出し『おいで、飛行機で遊ぼう』と呼びかけると、樹は声をあげるのをやめて素直に和室へついていった。
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