裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 和葉も樹の向かいに座り説明した。
「私としてもできるようになってくれれば助かるし」
 と、そこまで言って口を閉じる。
 彼にここまでの情報は必要なかったかもしれない。
 そんな和葉の内心をよそに、遼一は続けてくれというようににこにこと笑って、首をわずかに傾けた。
「日本の食事は問題なさそう?」
「あ、うん。むしろ喜んでるかも。向こうにいた頃も家ではできるだけ和食を食べさせていたんですけど日本の食材を置いてるスーパーが遠かったから、回数は少なかったんです。でも、うどんとか好きだったし。給食おかわりしてるみたいです」
「なら、よかった。本当に上手だな」
 両親の会話など関係なく樹は一心にスプーンを口に運んでいる。もうほとんど溢していない。
 喜ばしいことのはずなのに、和葉は少し気まずい気持ちになった。
「……煮込みうどんはしょっちゅうだから、食べ慣れたっていうのもあるのかも。忙しくて、なかなかいろいろなメニューを作れなくて」
 言い訳をするようにそう言うと、遼一がふっと笑った。
「煮込みうどん、栄養満点でいいじゃないか。野菜もたくさん食べてるし。好き嫌いはあまりなさそうだな。こういうところは、和葉に似てないのか」
 遼一が冗談まじりにそう言った。和葉が小学生の頃偏食だったことをからかっているのだと気がついて、和葉は彼を睨んだ。
「そんなの、小さい頃のことでしょ。もう克服したし。今はほとんどのものを食べられます」
「椎茸以外は、だろ?」
「だ、誰だってひとつやふたつは苦手なものくらいありますよ。それに……絶対食べられないってわけじゃないし」
 口を尖らせてそう言うと、遼一がふっと笑った。
 その眼差しが、昔、恋人同士だった頃の彼と重なって、和葉はどきんとして目を逸らした。
 そして、これがなかったらなんとかなりそうなんだけどな、と心の中でため息をついた。
 彼が樹に優しくしたいならその方がいい。ならば関わりを絶ちたいとまでは思わない。
 でもこんな風に和葉に対してもあの頃に戻ったように振る舞われるとやっぱり変な気持ちになる。
 かといって、やめてほしいとも言いにくかった。だってそしたらまるで自分が彼を意識しているみたいじゃないか。
 樹は煮込みうどんをあっという間に食べ終えた。口を拭いて椅子から下ろすと、てててと和室に戻っていく。そして遼一を振り返った。
「うー?」
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