裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 彼だけが知る敏感なところを集中的に刺激されて、思わず背中をしらなせる。うなじに差し込まれた大きな手にがっちりと支えられると、あとはもう彼のなすがままだ。
 言葉のないやり取りなら、なにかもがあの頃と同じだった。
 お互いだけが理解できる合図と仕草が、和葉の心をあの頃へと引き戻す。
 混ざり合う吐息から熱いもの溢れ出し、干からびた心の大地にぽとりと落ちる音がした。そこから芽吹き、瑞々しい葉を広げたその想いを和葉はよく知っている。
 まだそこにあったんだと、和葉は苦々しい思いになる。
 自分の中の彼への愛は、涙とともに遠い場所に捨ててきた。
 そう思っていたけれど、違っていた。
 もう愛していない大嫌いだと罵り封じ込めていただけで、ずっとそこにあったのだ。それが今完全に目を覚ました。
「和葉」
 目を開くと、いつの間にか彼の腕に抱かれていた。
 もう一度、唇を塞がれる。今度ははじめから彼を中に受け入れた。
 悪い男(ひと)だと和葉は思う。
 愛してなんていないくせに、まるで愛しむように和葉の中に触れるなんて。
 彼のキスは甘く味付けられた遅行性の劇薬だ。ひと時、幸せな幻覚を見せられて、最後には心をボロボロにする。しかもそれすらも嬉しいと思わされてしまうのだ。
 一方通行の愛なんて虚しいに決まっている。でもこうやって少しでも触れてもらえるなら、それでもいいと思ってしまう。
 常識も、理性も、過去の過ちから学んだことも、すべてを吹き飛ばす甘美なキスが心底怖い。
 けれどなにより怖いのはそれを強く望んでいる自分自身の愚かさだ。
 目を開くと遼一の鋭い視線がそこにあった。
「和葉、話したいことがある」
 その言葉にハッとして、聞きたくない、と咄嗟に思う。
 今このタイミングで彼が言いたいことなどひとつだけだ。
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