裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
「お待たせしました」
 自分で焼いたパンケーキにトッピングを飾り付けるように盛った皿とトレーをカウンターに置いて、仁美が元気な声を出すと、待ちかねたように立っていた家族連れの客から歓声があがった。
「おっきいねー!」
「美味しそう」
 ウキウキしながらトレーを手にテーブルに戻っていく。彼女はそれをニコニコして見ている。その彼女を和葉もニコニコして見ていた。
「もうすっかりHOPHOPの中心スタッフだね」
 客が途切れたのを見計らって声をかけると、振り返り恥ずかしそうに答えた。
「まだまだです。でも調理ができるようになって嬉しいし、楽しいです」
 謙遜しながらもその目は輝いている。
 先日オンラインで叔母と面接をした彼女は、一週間前から社員として働き出した。
 それを機に、叔母が派遣してくれた助っ人は帰国したが、シフトは問題なく回せている。
「そういえば、店長から聞いたんですけど、福岡に二号店を出す計画があるって本当ですか?」
「うん、まだ決定じゃないけどね」
「すごい! さすがは和葉さんと店長コンビ! どんどん広まるといいなあ」
「ここまでうまくいったのは、私たちの力じゃなくて仁美ちゃんがアルバイトに入ってくれたっていうのも大きいよ。他の子達も頑張ってくれてるけど、仁美ちゃんの貢献はピカイチだったからさ。いくらお礼を言っても足りないくらいだよ」
 本心からそう言うと、仁美が頬を染めた。そして少し迷うように視線を彷徨わせてから、口を開いた。
「あの、私もHOPHOPで働けてよかったです。えーっと……店長から聞いてるかもしれませんが、私経歴があまりよくないんです。高校を中退してて」
「そうなの?」
 和葉は啓からはなにも聞いていなかった。
「二年の時に、いろいろあって学校に行けなくなっちゃって……ほとんど家から出られない時期もありました。そんな時から考えると、今のこの状況が嘘みたいです」
「そうなんだ……。仁美ちゃん、しんどい思いをしたんだね。どうしてHOPHOPのスタッフ募集に応募してくれたの?」
「ホットケーキが唯一自分ができる料理だったからです。家にずっといると、世界から切り離されたような感じがして、なんにもできない自分はいらない存在だって惨めな気持ちになるんです。そんな時に気まぐれで作ったホットケーキを家族が美味しいって食べてくれて、ちょっとだけ救われたような気持ちになったんです。まあ、完全に私のために言ってくれたんだろうけど」
 思い出したように、仁美はふふふと笑った。
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