裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
「ホットケーキが焼けたってべつに生活は変わらなくて、何もできずに家でネットばかり見てたんですけど。そんな時にHOPHOPのスタッフ募集を見たんです。『私たちと一緒にパンケーキを焼きませんか?』っていう言葉にやってみようかなって……単純すぎですよね」
 スタッフの募集は、啓が担当したが確かSNSを活用したと言っていた。
「学歴不問って書いてあったけど、正直無理だと思ってました。高校行ってなくて何年も家に引きこもってた人なんて、信用できないでしょうし。でも面接で、店長が今の私の話をじっくり聞いてくれて、採用になったんです。すっごく驚きましたけど、こんなチャンスはそうそうないから頑張ろうって思いました」
 彼女の話を聞きながら、和葉は、オープンしたての頃、彼女が早くパンケーキを焼けるようになりたいと言っていたことを思い出した。あの言葉の背景には、こんな思いがあったのか。
 叔母は啓を頼りないというけれど、そんなことは全然ない。きっと彼には、叔母と同じように人を見る目が備わっているのだろう。
「はじめは不安だったけど、和葉さんが仕事を優しく教えてくれて、少しずつできることが増えて……私、毎日楽しいです」
 胸が熱くなった。
 まだはじまったばかりだけれど、ハワイでそうだったように、日本でもHOPHOPがたくさんの人の拠り所になる、そんな未来が頭に浮かぶ。
「……福岡も成功するように頑張らなきゃ」
 ますますやる気になってそう言うと「和葉」と呼びかける声がする。
 カウンターの向こうに、歩美がいた。
「歩美さん、こんにちは。今日は空港ですか?」
 彼女は遼一と行動を共にしているはずだから、ここへ来る日はそう多くないはずだ。
「そうなのよ」
 そう言って彼女は、左隣に視線を送る。つられるようにその先を見てドキッとする。隣のコーヒーショップで遼一がコーヒーを買っている。
 彼がコーヒーを買うのに、ついて来たというわけか。
 店員からコーヒーを受け取る彼の姿に、和葉は少し落胆する。
 家で会うようになってから、遼一はコーヒーショップへ来なくなった。それはマンションで和葉の体調を確認できるから……すなわち、帰国当初から彼が和葉を気にかけていたのでは?と淡い期待を抱いていたのだが、そうではなかったのだ。
 メニューを見ながら、歩美がうーんと唸った。
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