裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 こめかみから大きな手が差し込まれると、身体が勝手に期待をして、体温が一気に上昇する。後頭部に回った手に促されるままに上を向くとすぐ近くにある彼の視線。
 その瞳に、情欲の炎が浮かんでいるのを見るけれど、それは彼のものではない。対峙する和葉のものをただ映し出しているだけなのだ。
 彼の目に、自分はどれだけ物欲しげに見えるのだろう?
 それを思うと、恥ずかしくてたまらない。
 けれど今夜も、求めずにはいられない。
 考えるより先に、唇を塞がれる。欲しかったものが与えられた喜びに、和葉の背中が甘く震えた。彼のジャケットをギュッと掴んで、喜んで彼を迎え入れる。
 午後九時を回った静かな玄関に、ふたりの荒い吐息が響く。
 昼間に見た、彼の冷たい横顔がチラリと脳裏によぎるけれど、和葉はそこから目を逸らした。
 成長なんて全然していなかったと自嘲する。
 子供を産んで仕事をして、自立した、ひとりでも生きていけるなんて思っていたけれど、思い上がりも甚だしい。芯のところは昔のまま。相変わらず意思が弱くて進歩がない。彼とキスを交わすたびに、思い知らされる。
 いや、以前は相思相愛だと信じていたのだから、まだましだ。
 今の自分は本当に救いようがない。
 自分だけが狂わされているとわかっていて、彼を求めてしまうのだから。
 この空間でだけ、少しの時間でいいから、彼に触れられたいという気持ちを止められない。
 相変わらず、彼の方がどういう気持ちかはわからない。
 気まぐれか、男性としての本能か、あるいはかつて傷つけた相手への罪滅ぼしのつもりかもしれない。
 いずれにせよ、この行為のその先に和葉の望む幸せはない。
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