裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
「和葉……」
 キスの合間に自分を呼ぶ彼の声音に、愛の響きを聞いたような気がして胸が苦しくてたまらない。
 苦しいのに、やめられない。
 そんな自分が恐ろしかった。
 あの日芽吹いた彼への愛は、瞬く間に成長した。甘い香りを放つ花を咲かせ、毒々しい蜜を垂らす。それは地面に沼を作り、和葉の足元をおぼつかなくさせている。
 絶望から立ち上がり自分の足で歩いていたはずなのに、前へ進めなくなってしまう。
「和葉」
 彼の唇が自分を呼ぶ。彼の目を見つめて和葉は願う。
 ——もう一度。
 再びキスが与えられる。
 同時に踏み出した足先がズブズブと沼に沈んでいく。
 この愛に溺れていては、前に進めない。正しい道は遠のいていく。
 わかっているのに抜け出せない。
 彼の背中に腕を回して、仮初の愛を受けながら、和葉は自分が底のない沼に沈んでいくのを感じていた。
< 90 / 146 >

この作品をシェア

pagetop