裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 まるで夢のような幸せな一日だった。
 かつての和葉が夢見た未来、絶対に叶わない望みだったはずが、一日だけでも叶ったのだ。その魔法が解けようとしている。
 今日のことは、きっとこの先何度も思い出すだろう。これから先の長い人生、彼なしで生きる自分にとって大切な思い出だ。
 ——大丈夫。
 納得できないままに切り捨てられて、絶望した前回とは違うから。
「仕事?」
 タブレットを触る遼一に声をかけると、彼は顔を上げた。
「ん、まあね。でも今日はもう終わりにするよ」
 そう言って彼はタブレットを閉じた。
 彼の隣に和葉は腰を下ろした。
「今日はありがとう。樹すごく楽しんでた。……自分の父親が操縦する飛行機に乗れるなんて、あの子は幸せだよ。生んだ時はこんな日が来るなんて思わなかった……、わ、私も、私も嬉しかった」
 迷った末に、和葉は自分の気持ちも付け加えた。
 彼は樹のためにしたのだ。だからこれはルール違反。
 でも最後くらい許してほしいと、心の中で手を合わせた。それで決心がついたのだから……。
 遼一がタブレットをセンターテーブルに置いて和葉を見た。
「約束を守りたかったんだ」
 その言葉に、和葉は目を見開いた。
 昼間に思い出していた、遠い日のたわいもない会話が、頭に浮かぶ。
 まさか彼はあの約束の話をしているのだろうか。
 彼も、覚えていてくれた?
「外国、ではなかったけど」
 そう言って微笑む遼一の笑顔に、和葉の胸が熱くなった。
 ——もう、本当に十分。
 心の中で呟いた。
 本当にこれで終わりにできる。
 一方通行の愛でも、虚しくなかったと今は思う。
 結局自分は愛されることはなかったけれど、自分と同じ種類でなくとも、彼も和葉を大切に思ってくれていた。
 報われなくても愛は愛。
 自分が愛したこの気持ちを大切にすればそれでいい。
 それで私は満足だ。
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