裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
「うん、ありがとう。すごく嬉しかった。……あのね、遼一」
「ん?」
「前に……話したいことがあるって言ってたじゃない?」
 思い切って切り出すと、遼一の表情に少し緊張が走った。
 せっかくいい気分で一日を終わらせようとしているのに、気まずい話題をこのタイミングで蒸し返すのか?と思っただろうか。
「あの話、聞こうと思う」
「和葉、聞く気になったのか?」
「うん、でも、東京に帰ってからでいい?」
「ああ、いいよ。もちろん」
 安堵したような表情の彼を、卑怯だとは思わない。それでも彼を好きだから。
 本当に、悪い男(ひと)だと、心の中で呟いた。
 東京で、彼は和葉にこう言うだろう。
 ——どれだけ触れても君との将来は約束できない。それを肝に銘じておいてくれ。
 そしたら和葉は、それならばもうこんな関係は続けられないと告げ、今度こそけじめをつけるのだ。
 樹との交流は続けてとお願いするつもりだが、もう自分が立ち会うのやめよう。場所はホテルか遼一のマンションか、今のふたりなら和葉がいなくても大丈夫だ。
 本当は、そんな手順を踏まなくても、きっぱりと決断できたらいいのだろう。でも自分から別れを告げることは、できそうにない。弱い自分が不甲斐ない。
 不本意かもしれない冷たい言葉を彼にあえて言わせることを申し訳ないと思う。
 そのかわり、今度はもうなにを言われても彼を恨んだりしない。
「明日は俺は先に帰るから、東京で時間は取れない。次に会える日が分かったらメールするよ。話はその時に」
「うん……」
 頷いて和葉は目を伏せた。
 すべての準備は整った。
 叶えたいことも叶ったし、大切な約束も果たしてもらった。
 これ以上なにかを望むのは、贅沢だとわかっている。
 ——わかっているけれど……。
 こくりと喉を鳴らして、目を閉じる。緊張で指先が冷たくなっていく。
「和葉? どうした? 疲れたか?」
 うつむき黙り込んだ和葉を、遼一が心配そうに覗き込んだ。
 長い交際期間の中で、和葉が自分から彼をベットに誘ったことは一度もない。そんなことをしなくても彼はいつもスマートに和葉をリードしてくれた。だからやり方がわからなかった。
 ふたりの間にそんな合図もなかったから、遼一にも和葉の気持ちはわからないだろう。
 今、自分はどんな顔をしているのだろうと思うと恥ずかしくてたまらなくなる。緊張で心臓がバクバクと鳴っている。
 こんなこと、お願いするなんてどうかしてる。
 彼に軽蔑されるかもしれないと思うと、挫けそうになってしまう。
 でも最後だから、わがままはこれで終わりにするからと、頭の中で繰り返した。
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