(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「あれ?いっちゃんも今から帰るの?」
——いっちゃん…?
一体誰の事か。そう思った途端、まさかのその隣にいた伊澄が返事を返した。
「担任に呼ばれてた。お前は」
「私は日直で、戸締りして鍵を戻さないといけなかったから」
「は?警報出てんだろ。相手に任せて帰れや」
「仕方ないよ、もう一人の子は電車通学なんだもん。電車が止まったら大変でしょう?」
「それでお前になんかあったらどうすんだ。おばさん泣くぞ」
私はその場から動けなかった。あんなに伊澄が言葉多く話すのを見たことがなかった。
しかも相手は女子。加えて「いっちゃん」なんて似合いもしないあだ名で呼ばせている。
これは浮気?でも、会話の内容だけ聞けばただの同級生同士の会話。
私がそう混乱しているうちに、伊澄も傘を開いた。そして、その時に少しだけ伊澄の顔が見えた。
「!」
その表情は、あの時と同じだった。
いつもと変わらない無表情のはずなのに、どこか柔らかさを含んだ、穏やかさの垣間見える表情。
それが何を意味するかなんて、私が一番よく分かっていた。
そのまま2人は何を言うでもなく歩いて行った。伊澄が少し先を歩いていて、それに女生徒が後に続く形で。
相合傘をしているわけでもないし、一緒に並んで歩いているわけでもない。けれど確かに、私はひどく傷ついていた。
だって、あんな顔。私には一度も見せてくれたことなんかない。
…あんなの、あの子のことが好きだって言ってるようなものじゃないか。