(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「いっちゃん、肉まんとピザまんだったらどっちがいい?」
そんな伊澄の心情などつゆ知らず、当の本人の関心は食に向いていた。
「…肉」
「言うと思った」
返事を返すよりも前に雫は肉まんを手にしていたらしく、言葉と同時に伊澄に手渡してきた。
「夕食は食べた?」
「まだだ」
「ならデリバリーしよっか。これはそれまでの小腹満たしってことで」
雫もピザまんを手に取り、まだ中に残るデザートであろうそれらを覗く。
「ねえ、冷蔵庫借りてもいい?すぐ食べないなら一応冷やしておいた方がよさそう」
「好きに使え」
短く返せば雫は間延びした声でお礼を述べ、キッチンへ向かった。
「それより、忘れ物ってなんだったんだよ」
去っていくその背中に伊澄が声をかけると、「ああ…」と雫はおもむろに袋の中に手を入れた。
「歯ブラシだよ。無いと困るでしょう?」
言葉通りのそれを見せられ、伊澄は顔を顰め雫を睨んだ。
「だからいつも置いて帰れっつってんだろ」
「今日はたまたまだから。気を遣ってくれなくて大丈夫だよ」
「……」
まただ。雫は伊澄が何度言おうと頑なに私物を置きたがらない。それがいつも不満だった。何故だと素直に聞けばいいと頭では分かっていながらも、返ってくる返事が恐ろしく聞けずにいる。
——なに勘違いしてるの?
雫の口からそう問われでもしたら。そう思うと背筋に冷たいものが走る。そうなれば、今のように会ってももらえなくなるかもしれない。
以前にも増して伊澄が不安を募らせるようになったのは、夏の終わりの雫の言葉を聞いてからだった。