(番外編集)それは麻薬のような愛だった
雫はハッキリと、結婚願望は無いと告げた。
昔の雫は人並みに結婚に憧れを抱いている少女だったはずだ。両親だって未だに仲が良いと聞くし、結婚に対して悪いイメージがあるとは考えにくい。
ならば何故。それはいくら考えても分からない。
だが言葉の通り、今の曖昧な関係を続けていることからしても、雫にとっては今の関係が都合がいいことは分かる。
二十歳のあの日以降、雫の気持ちは伊澄には無い。…となれば彼女の想いは今、一体どこにあるのだろう。
「——いっちゃん?」
鈴の音のような声が聞こえ、見れば雫はテーブルに腰を掛けて首を傾げていた。
「ぼーっとしてどうしたの?冷めたらおいしくなくなっちゃうよ」
雫の手に握られたピザまんは半分ほどなくなっている。対して伊澄の手に持つ肉まんは、一口も食べられていなかった。
「…いや、なんでもない」
静かにそう呟けば外される視線。雫は今、どういうつもりで自分と一緒にいるのだろうか。そう思い見つめるも、雫の視線は戻らない。
「いっちゃんは何か食べたいものある?」
スマホを見ながら、雫は尋ねてくる。何でも構わないと言えば「じゃあ適当に頼んじゃうね」と返事が返ってきた。
「……」
昼返上で仕事を片付け、腹は空いているはずだ。それなのに手にした肉まんは、どうも美味しくは感じられなかった。