(番外編集)それは麻薬のような愛だった
間も無くして浮き上がってきた「当選」の文字に何の感慨も浮かばずそれを手渡せば、雫は勢いよく顔を上げ、瞳をキラキラと輝かせていた。
「すごいよいっちゃん!私当たったの初めて!」
久しく見る雫の嬉しそうな顔に、伊澄の心臓が激しく波打つのを感じた。
「…へー…」
「これすごく倍率高いんだよ?やったあ!」
子供のように喜ぶ雫のなんと可愛いことか。
伊澄にとっては狙ったくじ引きを引くのは出来レースのようなものだが、雫には違う。手渡したスマホを宝物のように抱きしめながら雫は頬を桃色に染め、無邪気な笑顔で言った。
「すごく嬉しい。いっちゃんと来てよかったぁ…」
もはやその言葉に、伊澄は何も返すことが出来なかった。
たったこれだけのことで花のように顔を綻ばせ喜ぶ雫に、どうしようもない愛おしさを感じる。そんな彼女を、なんの負い目もなく抱き締められたらどれほど良かっただろう。
あの頃馬鹿などやらずせめて雫を大切にしていれば。あの夏の日に興味本位で手なんて出さなければ。
全てが遅くどうにもならない事実に胸が痛む。
けれどどれほどの罪悪感に苛まれようが、今更雫の側を離れる事なんて出来ない。
——せめて、今だけはこの笑顔を守りたい
そう思い痛みの中に確かに満たされるもの感じていると、雫の瞳と目が合った。
大きくつぶらな瞳は淀みなく伊澄を見上げており、自分の図々しくも醜い心を知られたくなくて伊澄は目を逸らした。
「…っ、パレードの時間はいいのか」
「わっ!そうだった!教えてくれてありがとう、いっちゃん」
そう言って伊澄の横を通り過ぎていく雫の背中を追う。
いつも自分の後ろを引っ付いてきていた小さな女の子は、とっくに違う世界をその瞳に映している。
どうしたら彼女の心は戻るだろう。どうしたらもう一度自分を見てくれるだろう。
そんな無限ループを、こうして何年繰り返してきただろう。
「どうしたの?」
不思議そうに首を傾げる雫の質問に答えられるわけもなく、伊澄は首を振るしか無かった。