(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「Happy Merry Christmas !!」
騒がしい音楽を響かせながら、派手な装飾のパレードカーが次々と目の前を通り過ぎていく。
無表情を貫く伊澄とは対照的に、雫は冬仕様のコスチュームに身を纏ったキャラクター達の歌やダンスを視線を一切逸らす事なく楽しそうに眺めていた。
「ちゃんと見えてるか」
「うん、大丈夫。見ていっちゃん、あの衣装可愛い!」
「……」
「あーあ。繁忙期じゃなかったらあの子達にも新しい衣装作れるのになぁ…」
あの子達というのは、雫の家に並ぶぬいぐるみ達の事を言っているのだろう。
毎年、雫は冬から春にかけて長い繁忙期に入る。今年も漏れなくそうらしく、年度を重ねるごとにそれが増している気がする。
「そんなに忙しいのか」
「うん。けど毎年のことだからもう慣れたよ」
「…帰りは大丈夫なのか」
「ん?帰り道ってこと?まあ終電とかになるとさすがにちょっと怖いけど、防犯グッズはちゃんと持ってるよ」
終電。その言葉に伊澄の眉間の皺が寄る。
「そんなに遅くまで残らないといけねえのかよ」
「毎日じゃないよ。けど前より担当も増えたしこればかりはみんな同じだからね。女だからって優遇されるのもなんか嫌だし」
「…それは…」
「忙しいのはいっちゃんもでしょう?ちゃんと休めてる?ご飯も3食ちゃんと食べれてる?」
「お前よりは生活力あるわ」
「確かに。失言でした」
雫はけらけらと笑うが笑い事ではない。過去一度インフルエンザを患い一人で耐えようとした雫を引っ張って病院まで連れて行き、雫の母にヘルプ要請した記憶は今でも新しい。
あの頃は大学生で今より余裕があったから早めに気付けたものの、今あれをされるとすぐに駆けつけてやれるか分からない。
出来るだけ毎週声をかけるよう心がけてはいるが案件が重なるとそれが難しくなる。何せ会社は早く伊澄に一人前になって欲しいのか、余裕があると知ると次々に仕事を押し付けてくるのだ。