(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「…まだ持ってたの?」
「……気に入ってんだよ」
「……」
「あれから結局何も返せてねえから、それはこれの礼だと思っとけ」
こんな理由でしか贈り物ひとつ出来ない自分が恨めしい。それだって受け取ったのはもう10年近く前の話で、今更でしかない。
本来渡すはずだったものは卒業式の日に会う事すら叶わず、未だ実家のクローゼットに眠ったまま。いい加減処分しろと何度母親に怒鳴られても、どうしても手放せなかった。
この手袋と残った制服だけが、唯一手元に残った雫からの思いの欠片なのだ。
——情けなくて反吐が出るわ…
だが結果的にはそれは功をなし、雫はそれ以上抵抗することは無かった。
その後はすぐに予約していたショーの会場へと赴いた。
その間雫は努めてそれまで通りを装ってはいたが、ふとした瞬間に浮かない顔で考え込む素振りを見せていた。
また何か自分は選択を違えたのか。伊澄はその顔を見るたび、不安に駆られた。
「…雫、」
その日の目的を終えパーク内レストランでの食事の最中、視線を手元に落としたままぼんやりとする雫に声をかけた。
「…あ、ごめん。ぼーっとして聞いてなかった…何か言った?」
ただ名前を呼んだだけなのだが、本当に心ここに在らずだったらしい。
それに酷い寂しさを感じた伊澄は、一瞬だけ唇を噛み締めた。
「…飯食った後も此処でしたい事はあるか」
「え?あー…ううん。大丈夫。日が落ちたらもっと寒くなるし、明日も仕事だから今日はもう帰ろうかな」
「ならもう一泊うちに泊まれ」
「……」
「お前身体冷やすとすぐ風邪ひくだろ。…すぐに湯張れる準備してきたから、早いうちに体温めとけ」
「…うん。分かった」
短い返事だけすると、再び雫の視線は逸れる。