(番外編集)それは麻薬のような愛だった
紬はママっ子だ。とにかく雫が大好きでこれでもかと甘えている。顔もそうだが、そんなところも自分とよく似ている。
子どもと張り合うなんてみっともない。父親として情け無いことは百も承知だ。
それでも2人きりの今だけは、雫が自分だけのものであると思いたかった。
「いっちゃん…」
柔らかな声が耳を撫で、優しい抱擁が伊澄を包み込む。視線を上げれば慈愛に満ちた瞳が伊澄を見つめ、確かにそこには伊澄だけが映されていた。
「…寂しかった?」
そう聞かれ、素直に答えていいか悩んだ。けれどもう彼女にはみっともない姿など散々見られている。そうなると今更取り繕う意味も無く、伊澄はゆっくりと頷いた。
「そっか…ごめんね、」
「いや…寧ろこんな事言って困らせて悪い」
「困らないよ」
雫は少しだけ顔を浮かせ、伊澄の額に口付けた。
「とっても嬉しい。あのいっちゃんに嫉妬してもらえる日がくるなんて、夢みたい」
「……」
そうか、と。その言葉は伊澄の中でストンと落ちた。
自分は嫉妬していたのか。
嫉妬という感情には縁が無かった。今思えば雫が初めて合コンに行った時の激情がそうなのだろうが、あの時はただ焦るばかりで苛ついて、自分自身に向き合うなんて余裕は無かった。
その相手が娘というのが益々情けないが、雫が
笑ってくれるなら、もうなんでも良かった。
雫の唇の触れた額が酷く熱い。おでこにキスで喜ぶなんて小学生…いや、幼稚園児かと鼻で笑いたくなる。
だがそれが答えだ。雫からの愛情表現には、例え幼稚園児レベルであっても飛び上がるくらい喜んでしまう。
それほどまでに、深く雫を愛してしまっていることを、ただただ思い知らされた。