(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「ごめんね、2人とも。お待たせしました!」
雫がそう声をかけて乗り込むと、すかさず紬が尋ねてくる。
「おかあさん、忘れものはない?お財布とスマホは持った?大丈夫?」
足をぷらぷらと揺らしながら悪気なくそう確認してくる娘に、雫はにこやかな笑顔を向ける。
「私よりつーちゃんの方がしっかり者さんだね」
「だっておかあさん、いつも外に出てから思い出して取りに戻るから。わたし、今日だけは途中で戻るの絶対に嫌だもん!」
「ふふ、大丈夫だよ。ちゃんと確認してきたからね」
そんな微笑ましい会話していると、運転席の伊澄が雫達に声をかけてきた。
「じゃあ、車出していいな?」
「うん。お願いします」
雫の返事を聞き、伊澄はシフトレバーをドライブへと切り替えた。車が発進すると同時、紬が楽しそうに話しだす。
「楽しみだなあ!早く会いたいなあ!」
弾む声色に、雫はミラー越しに後部座席を見る。
「つーちゃん、ずっと楽しみにしてたもんね」
「うん!だってずーっとお願いしてて、やっとオッケーもらえたんだもん!」
紬はそう言い窓の外を眺めながら、焦がれるように続けた。
「"いちご"ちゃん、私のこと好きになってくれるかなあ〜」
後ろを振り返り、紬にそうだねと雫が穏やかに返すとふと伊澄が話に入ってきた。
「その名前、冗談じゃなかったのか」
「ええ?ずっと前からわたしそう言ってたよね?おとうさんってば聞いてなかったの!?」
「いや聞いてはいたが…ペットに食い物の名前付けるってどうなんだ…?」
「なんでえっ!?可愛いじゃん!それにわたしと同じ春生まれの子なんだよ?それにイチゴって春が旬なんだよ?ピッタリじゃん!」