(番外編集)それは麻薬のような愛だった
伊澄に食いつく紬に、雫はのんびりと返す。
「わあ、つーちゃんよく知ってるね。学校で習ったの?」
「そうだよ〜!わたし、クラスで1番頭が良いんだからっ」
ドヤァ!とでも言いたげに胸を張る紬。そんな可愛らしい態度に雫はクスクスと笑い、隣に座る夫に声をかけた。
「つーちゃんの頭がいいのはいっちゃん譲りだね。いっちゃんも昔からなんでも1番だったもん」
「…そうだったか?」
「うん。かっこよくて、ずっと憧れてたんだよ」
運転中なので伊澄は視線こそ寄越さなかったが、その口元が綻んでいるのは見て取れた。
しかしそんな雫の言葉に、後ろから「むうー」と不貞腐れた声がかかる。
「もーおかあさんってば、またおとうさんの事ノロケてばっかり!わたしのことも褒めてよ〜」
「惚気って…どこで覚えてきたんだそんな言葉」
呆れる伊澄を無視し、紬は体を前に倒して雫を覗き込む。
「この間のテストも100点だったし、マラソンでも1番だったんだよ!ねえねえ、すごいでしょ?」
「うん、もちろん知ってるよ」
当然ながら雫はどちらも知っている。満点のテストは紬が学校から帰るなり嬉しそうに見せてきたしマラソン大会は直接参観に行った。更には表彰台の上で「おかあさーん!」と大声を上げて手を振る紬に手をふり返した。
ひとりっ子で蝶よ花よと甘やかしてきたせいか、紬は超のつくママっ子で甘え上手な子に成長した。
雫もまた、外見からその秀才ぶりまで愛する伊澄にそっくりな事もあって、紬の事は目に入れても痛くないほどに可愛がっていた。
だからかは分からないが、雫が伊澄の事を褒めると何故か対抗心を燃やし、こうして猛アピールをしてくる。