(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「紬、」
不意に、伊澄がそう声をかけた。
「なあに?おとうさん」
紬の返事に、伊澄は後ろを振り返る。
「今は無理に知ろうとしなくて良い。けどそれがどういったものか分かった時、適当な行動だけは取るなよ」
昔より大分穏やかな顔をするようになった伊澄だか、この時ばかりは表情を一切消していた。
「調子に乗ってると、大事なものを見落しちまう。その時に後悔するのは…紬自身だから」
「こうかい?」
「ああ。それに気付いた時には取り返しがつかなくなってるかもしれない。…お前には、俺と同じ間違いはしてほしくない」
そこまで言った伊澄は紬から視線を逸らし、雫を見る。
——いっちゃん…
それは久しぶりに見る、伊澄の後悔に濡れた表情だった。
昔の事を悔いてくれている。その事が嬉しくて、切なかった。
確かに過去のことは雫をひどく傷つけたし、一時は心が壊れた。けれどその遠回りがあってこそ今の強い絆やかけがえのない幸せがあるような気もしていて、雫はそれに対して何も言葉を返せなかった。
「…うーん、むずかしくてよくわかんない」
そう言った紬だったが、「でも、」と続けた。
「わたしはおとうさんよりえらいから、たぶん大丈夫な気がする!」