(番外編集)それは麻薬のような愛だった
——優しいなあ…
こうしたさりげない伊澄の優しさに触れる度、ただでさえ溢れそうな伊澄への愛情が飽和する。
「ありがとう」
「…ん、」
笑顔を向けると大きな手のひらが頭に乗せられる。ぽんぽんと2回ほど優しく叩くと、伊澄もまた玄関を降りて靴を履いて玄関の扉を開けた。
「リードは紬が引くのか?」
外に出ると先に門の前で待っていた紬に声をかける。大丈夫なのか?と問いかける伊澄に、紬が可愛らしくぷくーっと頬を膨らませた。
「いつまでも赤ちゃん扱いしないで!わたしもうお姉ちゃんだってば!」
「そういうつもりで言ったんじゃねーよ」
拗ねるな、と先ほどと同じように紬の頭に手を乗せたが、それは呆気なく払われていた。
「おとうさんこそ、ちゃんとお散歩セットは持ってるの?」
「ぬかせ。完璧に用意してるに決まってるだろ」
にやりと笑い勝ち誇った笑みで手に持つ鞄を見せつける。それを見て紬もまた、よく似た笑顔でにんまりと笑った。
「じゃあ今日はおとうさんが荷物係ね。わたしがいちごちゃんと前歩くから、ちゃんと着いてきてね?」
「はいはい」
微笑ましいやり取りを見ながら玄関の施錠をして雫は伊澄の隣に並ぶ。両親が揃ったのを確認すると、紬の声かけと共に朝の散歩が始まった。
いちごがまだ子犬ということもありそれほど長い距離は歩かない。近くの公園まで行って、ぐるりと回って帰るだけの短い道のりをゆっくりと歩く。
肌寒かった朝の空気が夏に向かうのを感じながら、雫は前を歩く愛娘と愛犬を優しい眼差しで見つめていた。
——本当に、幸せ。
この幸福な時間が、ずっと続いて欲しい。