(番外編集)それは麻薬のような愛だった
——『あんな風になりたいか』
あの時の言葉にそんな意味が込められていたなんで、分かるはずがない。だけど素直な伊澄の気持ちは、ただただ嬉しかった。
辛かった気持ちも、絶望した記憶も消えない。
けれどそれ以上に、思いを伝え合ったあの日から伊澄は幸せだけをくれている。
雫をただ一人、まっすぐに愛してくれている。
だから今その気持ちを聞いて、思うことはただ一つだけだった。
「…雫?」
そっと身を寄せれば優しくかけられる声。
今ではそれが、自分だけに向けられるものだと雫は知っている。娘の紬にさえ聞かせないような、優しく甘く、雫を包み込む、安心する音。
「いっちゃん。私、すごく幸せ」
伊澄の不安はきっと一生拭えない。
きっとどんな言葉を紡ごうが、彼はずっと己の過ちに後悔をし続けていくんだろう。
だから雫は少しでも多く、伊澄への愛情を伝える。
「あの時の気持ちが聞けて、すごく嬉しい。だからこれからは…ううん、これからも、いっちゃんの気持ちたくさん聞かせて」
彼の全てが知りたいと思うのは傲慢だろうか。
けれどそれほどまでに伊澄に対して図々しくなれたことが、少しだけ嬉しくもあった。
繋がった手は固く、過去のような蟠りは欠片もない。
目前には、ただただ輝かしい幸せの光だけが見える。