【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい
「ジェイラスさん……?」
 これ以上彼に見られたら、本心をすべて暴かれそうで怖い。
「す、すまない……あ、その……昨日のことだが……」
 ジェイラスの顔がみるみる赤くなり、彼の声はどこかうわずっている。まるで、伝えたい言葉が喉に詰まり、出口を見つけられないかのよう。
 だが、彼はコホンとわざとらしい咳払いをして、表情を立て直した。
「いや、怪我をしている君に言うことではないな。まずは、ゆっくりと休んでくれ。使われた毒の種類は、こちらで把握している。傷口にも解毒薬を塗ったが、今晩は熱が出るかもしれない。苦しいときは遠慮せずに、そのベルを鳴らしてくれ」
 彼が示したのは、使用人を呼ぶための小さな銀のベルだった。
「え、と。ジェイラスさんが?」
「ああ、俺が控えている。だから安心して眠ってくれ。お腹は空いていないか?」
 そう言われると、夕食も食べずにここにやってきたのだ。だが、不思議と空腹を感じなかった。
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