【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい
 彼女は我に返り、騎士の視線から逃れるように笑みを浮かべる。
「本日はご足労いただき、ありがとうございました。息子がぐずっておりますので……これで失礼いたします」
 急ぎながらも、できるだけ丁寧に言葉を紡ぐ。
 相手は王太子の護衛を務める騎士である。失礼があってはならない。
 そう自分に言い聞かせ、背を向けようとした。
「待て……!」
 抑えきれない熱を帯びた低い声が、彼女を引き止めた。
「はい…?」
 そう言って振り返ったとき、男は一歩踏み出す。
「俺はジェイラス……ジェイラス・ケンジット」
 息子が小さな手で服を握りしめる中、男の突然の名乗りに、彼女は戸惑いとほのかな苛立ちを覚える。
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