【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい
「俺と……結婚を前提に、付き合ってほしい」
 彼女はキャメル色の瞳を、まるで目に異物でも入ったかのように、何度も瞬く。だが、そうではない。それは彼の言葉があまりにも信じられず、動揺したからだ。
 なぜ、王太子の近衛騎士ともあろう男が、素性もわからぬような子連れの女にそんなことを言うのか。王太子の護衛となれば、それなりの身分を持つ者だと記憶している。
「ご……」
 そこで彼女はひゅっと息を吸う。
「ごめんなさい……無理ですっ」
 声が震えた。
 息子が「まま、かえる、まま、かえるよ!」と繰り返すなか、しっかりと抱き直し、彼女は逃げるように小走りでその場を去った。
 男の視線は彼女の背を追い続け、夕日がそんな彼の影を長く伸ばした。
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