【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい
 アリシアはヘバーリア語もできたはずだが、記憶のない彼女をこの場に立ち入らせるわけにはいかなかった。今のアリシアはモンクトン商会のシアであって第二騎士団のアリシアではない。
「やっほ、よろしくね!」
 ホーガンの軽やかな声が、地下室の重苦しい空気を一瞬和らげた。
 燃えるような赤い髪が腰まで伸び、くせ毛がランプの光に揺れる。熱くたぎる赤い瞳と中性的な容貌は、性別を判断しにくいが、声は確かに男性のものだった。
「あっ……はい」
 牢番の騎士は戸惑いを隠せず、ぎこちなく頷いた。
 ジェイラスは奥から二番目の鉄格子の前に立ち、男を見下ろした。
 猿ぐつわをされ、両手両足を拘束された男は、うつろな目でジェイラスを見つめてくる。汗と恐怖で湿った顔が、魔石ランプに照らされ不気味に浮かび上がった。
 うなり声の正体は、この男だ。
「毒の仕込みはなかったな?」
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