野いちご源氏物語 二〇 朝顔(あさがお)
源氏(げんじ)(きみ)はすっきりしないまま二条(にじょう)(いん)にお帰りになったので、横になっても物思いを続けておられた。
早朝に窓を開けさせて、お庭の朝霧(あさぎり)(なが)めていらっしゃる。
枯れた花のなかに、朝顔が(つた)をよたよたと()わせて(はかな)げに咲いている。
めずらしい色の花を折らせて、朝顔の姫君(ひめぎみ)へのお手紙に()えてお届けになった。

お手紙には、
「昨夜はずいぶんきっぱりと私を拒否なさいましたので、気まずくなって逃げ帰りましたが、その後ろ姿をあなたはどうご覧になっていたのでしょう。あなたのことがいつまでも忘れられないのです。どれほど美しい女性におなりになったことか。長年の恋心に同情くらいはしていただけるだろうと期待しております」
とお書きになった。

昨夜のご様子に比べれば落ち着いた内容のお手紙だったので、
<お返事をしないのも冷淡(れいたん)すぎるだろう>
と姫君はお思いになる。
女房(にょうぼう)(すずり)などを用意されて、姫君は、
「私はすっかり若さを失ってしまいました。このしおれた朝顔の花そっくりでございます」
とお返事をなさる。

それほど見どころのあるお手紙でもないけれど、源氏の君は受け取ってからずっとご覧になっている。
喪中(もちゅう)らしく青っぽい灰色の紙に、(すみ)濃淡(のうたん)が美しく映えているように源氏の君はお思いになる。
手紙ってなまものだから、今あらためて書くと大したことないように聞こえるかもしれないけれど、このときは源氏の君のお心に()みたのでしょうね。
ご身分の高い姫君からのお手紙で、ご筆跡(ひっせき)も美しければ、だいたいすばらしく思われるものよ。

<今さら若者のような恋文を書く年齢でも身分でもないけれど、つかず離れずでいるのはあまりに()しい。やはり姫君を恋人にしたい>
と、熱心にお手紙をお送りになる。
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