主人公の座、返してもらいます!〜私が本物の主人公だったらしいので華麗に人生を取り返してみせようと思います〜
それが出棺の合図だった。テネブラエ王家の伝統に則り、棺は王宮の礼拝堂から王の衛士たちによってゆっくりと運び出される。

棺の周囲には喪の花々ーー白百合と紫の薔薇、そしてお母様が愛したというアヤメが供えられていた。

列席者たちの最前列、母の棺を真正面から見つめる場所に、私は立っていた。

厳かに進む葬送の列を見つめる私の胸の内には、静かに言葉にならぬ思いが渦巻いていた。

棺の蓋は閉ざされていたが、その奥に眠るお母様の面影が、私の瞼の裏にありありと蘇る。

深い紫の髪に深紅の瞳、穏やかで包み込むような声、そして時折見せた、どこか儚い笑み。

(お母様……ようやく貴女を、貴女の生まれた国に戻すことができました)

気づけば、私の視線の先に聖下の姿があった。

彼もまた沈黙を保ちながら、棺を見送っていた。

誰も言葉を発さない。ただ、王家の静謐な悲しみだけがそこにあった。

私は、再び目を細めて聖下を見つめた。

けれど彼の視線が自分に向けられることは、やはりなかった。

(家族の絆で気づいてくれる……なんてことは無いか)

小さく胸の奥で痛みが弾けた。けれど私は顔を伏せなかった。

涙を流す代わりに、背筋を伸ばして棺を見つめ続ける。

私の隣には、叔父様が静かに立っていた。私の様子に気づいたのか、一瞬だけ彼は視線を向け、そして再び前を向いた。

(これは終わりじゃない。これから、私の物語を取り戻す。始まりなのよ)
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