主人公の座、返してもらいます!〜私が本物の主人公だったらしいので華麗に人生を取り返してみせようと思います〜
***

「今の貴方のこと、もっと知っていきたいです。――ゆっくりでも、いいですか?」

ああ、まったく。
こっちの心の裾を、そう簡単に掴んでくれるなよ。

彼女の声は、思った以上に優しくて、真っ直ぐで。
この俺が今さら揺れるなんて、らしくもないのに。

──“今”の俺、か。

ラティが知ってるのは、今の俺だけ。
本来の王子様然とした“ユリエンス”は、記録の中にしかいない。

けど、だからこそ、彼女は言った。
「今の貴方がいてよかった」って。

……この世界線でも彼女は俺と結ばれる。
そんな風に思ってた。思い上がってた。
俺は、そういう“立ち位置”のはずだと。

けど。

――結ばれるはずだったのは、“書き換えられる前”の俺だ。

本来の、綺麗で、強くて、正しくて。
誰よりも彼女を救う資格があった俺。

今の俺は、ただの成れの果て。
捻くれて、笑って誤魔化して、自分すら信じきれない。

それでも。

「……ああ、チクショウ」

彼女の言葉が、胸に残ってる。

――今の貴方を知っていきたい。

今の俺に手を伸ばしてくれるのは、たぶん彼女だけなんだ。

本来の俺じゃなくて、“今”の俺を。
それがどれだけ、救いになるのかを、俺は今、ようやく知った気がする。

「……なら、もうちょい頑張ってみるか」

月明かりの下で、ひとり、ふっと笑ってみせた。

誰にも聞こえないように。
けれど確かに、世界に向けて宣言するように。
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