呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
「エルさん、失礼します」
食い入るように見ていたので、ノックの音に気が付かなかった。ビクンっと身体を震わせて振り返ると、アルノートがお茶を持って入ってきていた。
「ティーセットをこちらに置いておきますね」
「いつもありがとうございます」
「今日はいいお天気ですよね。窓から眺めてもらうことしかさせてあげられず、申しわけないですが」
「いえ、ここからでも十分に、庭園を堪能することが出来ましたわ」
ラシェルの隣へ来て窓の外を見たアルノートが、何かに気がついたように「あ……」と声を漏らした。
「ベクレル様と一緒にいらっしゃるのは、第6皇女殿下のリリアンヌ様です。皇帝陛下とリリアンヌ様の母君が、庭園を案内するようにと申し付けておりましたので、今日がその日なのでしょう」
聞いてもいないのに、わざわざアルノートが説明してくれた。「そうですか」と当たり障りのない返事をすると、更に追加で付け加えてくる。
「ベクレル様は非常に面倒くさそうにしておられたので、何も心配することは無いかと」
「お気遣いありがとうございます」
「いえ。なにか他に欲しいものなどはありませんか?」
「紙をもう少しだけ分けて頂けるでしょうか」
「分かりました。直ぐにお持ち致しましょう」
何故こうも、アルノートはラシェルに気を使ってくれるのか。
下級官吏に過ぎないラシェルに、随分と対応が丁寧過ぎる。
「あの……アルノート様」
「はい?」
「アルノート様は何かご存知なのですか」
数秒の沈黙。
もしかしたらエスティリオから、何か聞かされているのかもしれないと思い尋ねてみたのだが、聞くべきではなかったのかもしれない。変に勘繰られる材料を作ってしまったのではと、一気に緊張が走る。
「へ……変なことをお伺いしてしまいました。忘れて下さい」
「エルさんに関して、特に何も聞いておりませんよ。私の知るあなたは農村の出の、魔塔主から抜擢された官吏だという事だけです」
「そう……そうですか。ただアルノート様があまりに私に良くして下さるので、何かあるのかと思ってしまいました」
「そういう事ですか。そうですね……強いて言うなら保身の為ですよ」
「保身……」
「近々エルさんにも、お仕えすることになりそうですので」
「私に……?」
「ただの予感です」
ふっ、と笑うとアルノートはそのまま部屋を出ていってしまった。