呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
「うーん、魔塔主様、暇じゃない割によく農場の方へ来るよね」
「そう……かしら」
やはりエスティリオが頻繁に顔を出すと思っていたのは、ラシェルだけではないようだ。ナタリーの言葉にアルベラも頷いている。
「それにいっつもエルばかりに話し掛けてるし。もしかして魔塔主様、エルに気があったりして」
「そんなわけないでしょ」
「だって農場のことなら農場長に聞けばいいのにわざわざエルに声を掛けるし、今回だってエルの事手伝えって言ってきたじゃない? わかんないよォ??」
うりうり〜と肘でラシェルを押して茶化しているナタリーに、アルベラは「ばっかじゃない」と息を吐き出した。
「そうやって有り得もしない妄想で、エルを期待させたら可哀想ってもんよ。魔塔主様が庶民のエルを好きになるなんて、そんなわけが無いでしょう」
「でも今の魔塔主様って貴族とかじゃなくて平民の出なんでしょ?」
「確かにそうだけど、でも相手は魔塔主様よ。生まれはどうであれ、この世で一番高いところまで登りつめたと言ったっていいんだから。滅多なことを言わない」
魔塔や魔塔主という存在はかなり特殊だ。
魔塔主は魔力を持つ人全ての最高指導者であり、尊敬の対象。どこの国にも属さない魔塔の主は、各国の王と対等どころかそれ以上の力を持っており、元首と言っていい。
この大陸の半分近くを支配している、ラシェルの父でありカレバメリア帝国の皇帝ですら、魔塔主を蔑ろには出来ない。
そんな地位についたエスティリオだから、御相手には当然、相応の身分を持った人が相応しいに決まっている。
「それに、エルってもう20代の半ばでしょ」
「ええ。今年で26です」
「そんな年増の女を相手に噂を立てられたら、かえって失礼よ。見た目だって凡庸そのものだし」
確かにその通りなのだが、アルベラのあまりにも露骨な表現にラシェルは苦笑いしながら同意した。
「そうよ、ナタリー。失礼だわ」
「まっ、エルは薬草栽培にかけては優秀だからじゃない? 目をかけられてる理由を、強いて言うなら」
アルベラがザブザブとカゴの中の水を切りながら、ふんっと鼻を鳴らした。ナタリーはまだ納得がいかない様子で、ラシェルを見てくる。
「でもさー、エルって時々どこかいい所のお嬢様じゃないかって思うことがあるの」
「え?」
「一つ一つの所作や立ち振る舞いが、とっても綺麗なんだもの。食事をしている時なんて、どこかの貴族のご令嬢みたい」
「お……お母様が厳しくしつけて下さったのよ。少しでも良い方と縁を結べるようにって」
生まれた時から教えられてきた癖は、なかなか抜けない。
ドレスを着た時の歩き方も、喋り方も、食事の仕方も、皇宮を出てから庶民の真似をしてみようと試みたが直らなかった。
最もらしい理由を見繕って述べると、アルベラが愉快そうに笑い声を上げた。
「ははっ! 好条件で縁を結べるようにお上品に育てられたのに、薬草栽培の雇われ農民じゃあねぇ。それも行き遅れだなんて。夫も子供もいる私の方がまだマシね」
アルベラは四十過ぎ程の年齢で、結婚もしており子供も5人いると言っていた。夫が怪我で内職をするくらいしか働けなくなったので、家を夫に任せて働きに出てきているそうだ。